けいおん

□崩壊、総崩れ
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愛し、愛される
そんな簡単なことが
苦手でしかたなかった









彼女の思考には私は付いていけな
いんだと気付いた時、なぜかスッ
と身体の力が抜けた。私の届く範
疇に彼女はいない、手が届くこと
はない。だから私が会いたいなと
感じた時、彼女は何も思っちゃい
ないんだと思えば結構な寂しさが
襲うけれど諦めに似た感情も同一
に込み上げてきた。      



きっと目の錯覚だとそう思った。
そう思った方が楽だから。ならば
眼前にいる彼女は彼女ではない、
そんな顔した彼女は知らない。芯
を失ったような身体を支える両足
がすくむ。          


そんな瞳で見てくれるな    



知っている。知らぬはずがない、
その瞳はまるで私で、愛しさを捨
てれない淋しい子供のようだ。精
一杯大人の真似事をしたって隠せ
ないのだ。私はまだ子供だと認め
た時逃げたから、今目の前の澪が
何しにきたかなんて手に取るよう
にわかった。逃げなかったのだ。
彼女は、向き合うために私の前に
現れたのだ。         



「律、聞いてくれるか?」   
「いやだ…」         
「律、お願いだから」     
「いやなんだッ!!」      



怒鳴り声は喉にチリッとした痛み
を残し、時期に名残も無くなった
た。澪の表情は変わらない、  



人を愛してしまった自分に嫌悪感
さえ感じる。なぜ、また大切な人
を作ろうとしたのだろうか、裏切
られるだけの偽善ならばもとから
いらない。つまらない人生でそん
な世界で私は生きていけば、誰も
傷つかない、誰も泣かない。自分
も…自分も護れるのに。    


「律、私を見てくれないか?」 


澪の声は切実な願いではない、そ
れは"命令"だとそう感じた。彼女
は逃げるなと言っている、水中の
奥深くに潜る私の手を掴み無理に
でも引っ張り地上に戻すように。
私はそんな誤りだらけの行為は望
まない。"誤り"ならば……。  




「澪は、私に何を望んでいるんだ
?」             



震える唇に、堪えろと信号を送っ
た。隙間から漏れるそうになる毒
を、喉にまで押し寄せる毒を…。


澪は一旦、瞼を閉じて、一息つく
。瞼を開けば澪の瞳はもう晴天よ
うに澄んでいた。       


「律の中に私を残してほしい」 





反響する声は耳の奥に     
染みる言葉は私の中に     





気付けば私はその場にしゃがみ込
んで泣いていた。       













人間は身勝手なのだろう。誰の責
任でもない。もしかしたら私がそ
の身勝手な人間かもしれない。 


澪は譫言のように言うのだ。  


  ――律、律……りつ    
―― 私を残してくれ     
    …私も律を残すから  


身勝手だな、本当に。身勝手な澪
に私も身勝手な要求をしてもいい
だろうか。寄り添うだけでもいい
、寄り掛かるだけでもいい。私を
澪の中に残してくれるならば、私
は一つだけでいい。      



「私を愛してくれ」      


身勝手で我が儘で、救いようがな
いな私は……。それでも涙を流す
私を包むように抱きしめて優しく
笑う。そして澪の赤い唇は言葉を
刻んだ。           



「当たり前だろ」       




ああ、私の世界が全て壊れた瞬間
だ。             

















20100902












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