けいおん

□清楚
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こんなお姉ちゃんがいたらどうだ
ったんだろうか。少しばかりの呆
れ口調と、握る拳でふざけている
律先輩をしかる背中を見てふと思
った。例えば唯先輩と律先輩がふ
ざけあっても決して唯先輩には手
をあげない。手をあげるのは律先
輩にだけ、手をあげると言っても
澪先輩は力など全くと言っていい
ほど入れてなくて、証拠に律先輩
は「痛い」とか「ひどい」とか言
って痛がる仕草を取っても顔は笑
っている。それをいいことに律先
輩も澪先輩には甘くて、それが幼
なじみの特権でもあって、何より
特別という称号なんだと思う。わ
たしより俄然一緒に過ごしてきた
日々が長い二人。それは何ヶ月、
何年も。私が考えている範疇さえ
も超えていると思う。     



こんなお姉ちゃんがいたら   

甘えて、頼って、でもか弱いから
わたしも頼られるかも。手を握れ
ば笑ってくれるし抱きしめられた
ら暖かいのかもしれない。   


あれ?おかしい        


自分の思考の範疇も自分が思うよ
り遥かに超えてるではないか。 


「あずさ」          

あー、これじゃまるで…    


「あずさっ」         
「へ?」           

澪先輩に恋をしているみたいでは
ないか。           


目の前には清潔感溢れる整った顔
がどあっぷ。わたしは咄嗟に身を
引き、目を見開いて驚いた。どう
したんだ?と眉を寄せて心配げに
見る澪先輩に私の心臓はドキドキ
と活発に動きはじめた、あー、私
死んでしまう。こんなに心臓が動
いたら張り裂けてしまう。胸を締
め付けられるこの苦しさが恋と言
うのであれば、目の前の彼女に触
れたいと思うのが愛ならば私は彼
女が欲しくてしかたないんだとそ
う納得せざる終えない。お姉ちゃ
んとして欲しいんではなくて、澪
先輩のすべてが欲しいと感じるな
らばそれはまさしく恋人として。

「澪、先輩」         
「ん?」           

口から零れそうになった言葉を飲
み込んで、堪えた。今私は何を…
。何を言おうとした?今は部活中
なわけで、先輩達もい……るはず
だったけれど………あれ?なんで
誰もいないのだろうか?    


瞳をユラユラと左右にちらつかせ
ても確認出来ない。今はそう、澪
先輩と私だけ…。呆気に取られど
うしてと疑問を浮かばせた私に苦
笑しながら澪先輩は口を開いた。


「律と唯はさわこ先生に呼ばれて
、ムギは家の用事」      


本当困るよなぁー、アハハ。  

―― そうですね       

必死に会話を続けようとして出た
のはこの一言だけ。それから私は
困りはてること暫く、澪先輩の顔
さえ見れずに下に目線を放浪中。
気まずい、非常に気まずい…。あ
ーもうなんで意識してしまったん
だろう。これでは澪先輩を困らせ
てしまうだけじゃないかぁ。もう
。自分の馬鹿さ加減に今さらうん
ざりしても遅いけれども、私は恐
る恐る顔を上げた。自分が想像す
る最悪な状況を思い浮かべていた
のに、そんなことお構いもなく目
の前の澪先輩は綺麗に微笑んでい
た。予想に反した事態だ。キョト
ンとする私をよそに長い指先が優
しく頭を撫でて、擽ったい。内心
驚愕するも顔には出さないように
必死で、正直恥ずかしくて今にも
叫んでしまいそうになる。   


「澪先輩…」         
「なぁ、梓。」        


なんですか、掠れてしまう言葉は
柔らかな唇に吸い込まれて、一瞬
目を見開いた。それでもまだ触れ
るその暖かさを拒むことなどする
はずもなく、ゆっくり瞼を閉じて
澪先輩の袖を握った。     















20100908














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