わんぴーす

□幸福論
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こんなにも穏やかな生活は初めてだった。ゆったりと海面を進むこの頑丈で大きな海賊船。毎度色恋いに華を咲かすコックさんがコーヒーやお菓子を私と航海士さんに進めれば我先にとどっからともなく長い腕が伸びてくる。それをいち早く察知したコックさんは物凄い形相で止める。船長は泣きじゃくり我が儘を言って騒ぎ出す。すると離れた場所から大声で長鼻君ば「釣れたぞー」なんて叫べば船長さんと船医さんは揃って駆け出し喜ぶ。音楽家は陽気にバイオリンを弾き楽しませ、大工さんは陽気な新たな発明を開発する。剣士さんはさしずめ眠っているか鍛練しているか。暴れ回る三人を航海士さんが叱る。それを私は外から見守っているのだ。

「おーい、ロビーン」

コーヒーカップから口を離し白いテーブルに置いた。呼ばれた声に反応して目線を向ければ船医さんとじゃれついている船長さんが居てその微笑えましい光景に優しく返事を送る。

「遊んでくれよー」
「俺も俺も」

目を輝かせる二人はまるで何かを見つけた子供のようだ。まだ子供なのだけれどそれ以上に幼く感じてしまいクスッと笑みが零れた。「おい、てめぇらロビンちゃんはなぁ今コーヒー飲んでんだよ。後にしやがれコノヤロー」―――隣で罵声を送るコックさんに一言「いいの」と告げて立ち上がり階段を降りる。ふと横目で航海士さんを見遣ればなぜか不機嫌そうなつまらなそうな表情を浮かべていた。擦れ違い様に「後でお話ししましょう」と穏やかに呟けば可愛らしい笑顔が飛び込みホッと安堵した。

「ロビーン」
「今行くわ」

急かされた言葉に少し足並みを速くする。今だに横になったままの彼等に少しでも目線を合わせるようにその場で座り込んだ。

「あのな、チョッパーがな…」

楽しそうに話す船長さんに耳を傾けていると焦ったように立ち上がる船医さん。手足をばたつかせて制止をしそうとしても止まらないその口に船医さんは船長さんの頬を思いっ切り引っ張った。一度はくぐもったもののどんどん伸びる頬を気にもせずにまた軽快に話しをするその姿についに船医さんは叫び始めた。
「ルフィの馬鹿っ、馬鹿っ」
涙目になりそうなぐらいに真っ赤になる船医さんに微笑みかけながら脇に手を伸ばし持ち上げればまたジタバタと騒ぎ始めた。否応なしに膝に置いてあげれは直ぐに大人しくなり素直に身体を預けた。船長さんはと言うと先程の意地悪な笑みが嘘のようにしかめっつらに変わっていく。

「ずるい、ずりぃぞ。チョッパーばっか、ずりいー」

俺も、俺もとせがむ船長さんを流石に膝に乗せて上げることは出来ない。船医さんを左膝に乗せて甲板から二本腕を生やす。ゆっくりと優しく頭を浮かせて右膝を滑り混ませた。

「これでいいかしら?」
「うししし、いいぞー」

二人の笑顔は眩し過ぎるわ、確かふざけてそう言ったことがあった。二人は間髪入れずに「ならロビンの笑顔は女神だ」恥ずかしげもなく言われたのだ。――ナミなんて怒り過ぎて怖いんだぜー。舌を出してうなだれるその脇で船医さんが青ざめて震えていた光景がフラッシュバックして吹き出した。
「なんだー?どうかしたかー?」
「いいえ、思い出し笑いよ」
「なんだかロビン、機嫌良さそうだなぁー」
「あら、船医さん私はいつも通りよ?」

フフッと手を口に側に持っていく。先程から突き刺さるような視線にさえ苦笑してついつい嬉しくて堪らない。こんな幸せでいいのか?そう考えることが初めてで、こんな生活も体験したことがない。ましてや私に仲間が出来るなんて未知の世界だと思っていた。そんな思いもしなかった現在(いま)にたまにどうしていいのかもわからなくなる。ナミは「そのままでいいのよ」と言ってくれた。やっぱり不思議なのだ。こんな私に優しいなんてどうかしている。それでも最近になってここがどうしようもなく心地好いことを私は知ってしまった。

「おお、年下共に玩具にされてんのかー」

大工さんは何か得体の知れない物を肩にしょい長鼻君に見せながらこちらに目線を向けた。

「ええ、そうよ」
「フランキー、ロビンはやらん」
「そうだ帰れ帰れ」
「あら、相当な嫌われ者ね」
「お前の言葉が一番傷付くぞ」

肩を落とす大工さんに――冗談よと笑顔で返せば顔をしかめてその場に座り込んだ。

「くえない女だぜ」
「あら、褒め言葉として受け取っとくわ」

左膝の上に座る船医さんと右膝に頭を載せる船長さんの頭を優しく撫でれば擽ったそう笑い、目を細めた。大工さんは小さく舌打ちをする。こんな日常が本当に好きなのだ。








20100729











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