わんぴーす

□独占欲
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「ああ、神よ。今僕は幸せです。この涼しげな風、惜し気もなく降り注ぐ太陽。そして僕の目の前には女神が二人、ああ。ありがとう神。3時のおやつですマイハニー」

器用に片手に二つのケーキが乗ったお皿を持ち軽快なステップを踏む。何時ものように意味深な言葉をズラッと息継ぎもなく歌うように言う。というか、洒落ですか?サンジ君?白いデッキチェアーに座るロビンは笑顔で「ありがとう、コックさん。素敵だわ」と告げた。もちろんサンジ君は腰をくねらせて目をハートさせて喜ぶ。最近はこの船での生活が慣れてきたのか船員と話すようになった。ロビンは決して拒むようなことはしない。例えばゾロが何かしら文句を言おうが読書をルフィに邪魔されようが何しようが何時も笑顔でいる。それは私とて同じ。私が暇そうにしていたら構ってくれるし、航海の仕事を手伝ってくれたり。嫌な顔一つせずに何もかもやりきってしまう。

「ロビーン」
「なぁに?ルフィ」
「暇だー」
「そう、なら私とお話、しましょう?」
「おお。するぞー」

今だってそうだ。サンジ君が持ってきたケーキはきちんと食べ、しっかりお礼も忘れない。そして笑顔でルフィの相手をする。それを見た私は良い気分にはならない。なんか取られたようなそんな感覚だ。あの事件?的なこと以来私とロビンの仲は急激に縮まったように思える。他の仲間よりも一緒にいることが多いし部屋が一緒だし同性だとかでロビンとの共有する場が多いとかそういった理由だけども。何故か一人締めしたいという独占欲が私を支配した。

ロビンはルフィの言葉に微笑み相槌を打つ。一つ、一つの言葉をしっかり聞いて返答をする。それがとても穏やかでルフィが何時もより嬉しそうに話しているのがわかる。すると、ロビンは何を思い出したかルフィに「ドラゴンは好き?」と聞く。空想の話しかもしれないけど、と言葉を続けルフィの返答を待つ。ルフィは目を輝かせ大声で「好きだ」と答えた。ロビンはそんなルフィを見て嬉しそうに笑い話し始める。

「ルフィは知ってるかしら?」
「何がだ?」
「この先の海流にはドラゴンが住むと言われた海域があるのよ」
「本当か?」
「ええ、それは1500年もの昔の話しよ。一匹の金のドラゴンが一人の人間を助けこの世界を見渡したという伝説があるの」
「すげぇぇえ。俺もドラゴンに乗りたい。ロビン、ドラゴンは今もいるのか?」
「そうね、それは私にもわからないわ」
「そうかー」

んー、んー。と唸り眉を寄せたルフィは口を尖らせてふて腐れた。
「ロビン。ルフィにそんなこと言ったらまた冒険だぁとかで騒ぎ始めるわよ」

私もその伝説は聞いたことがあった。でもそれはやはり伝説。伝説は何時も空想で終わる。「空想よ」とあしらえばルフィ頑なに「ドラゴンはいる」と食いついてきた。

「あんたねー、ドラゴンよ?いるはずないじゃない」
「ドラゴンはいるんだー。いるって言ったらいるんだ」

私とルフィは突拍子もないことで揉め事を始めた。何時もならルフィだから、とかで流しておしまいにしてしまうのに、何故か今回は売り言葉に買い言葉。大人気ないことはわかっているのにどうしても引き下がられなかった。

「航海士さん、ルフィ。喧嘩はダメよ。」

ロビンは困ったように笑う。私達を交互に見つめた。フフフと手を口に持っていき「そうね、喧嘩するほどの仲ってことね」と呟いた。

「ロビンー」
「ドラゴン伝説。私は信じるわよ?」
「へ?」
「伝説は昔の人が伝えてきたもの。それを大切にしたいの。でも空想かもしれないというほうが確率は大きいわ」

――…ほら、見ろ。ドラゴンはいるぞ。ルフィは私に指を指す。あんた何聞いてた。ロビンは信じると言っただけで本当にいるって言ってないでしょうが。そう思うけども今更になって大人気ないことをしたなと改めた。はぁ、と溜息を吐きシュンッとうなだれた。ドラゴン伝説なんて本当は否定しようが固定しようが対した問題ではない。こんなにもルフィに食いついた理由はただ悔しかっただけ。頭が上がらないとはこのことだ。あぁ、もう嫌になっちゃう。

ふと陰が掛かり、見上げようとすれば――…「航海士さん」―― 私を呼ぶ優しさを含んだ声が聞こえた。頭を撫でる暖かい手の感触。ルフィが横で「ずりぃ」と文句を言うがそれさえも今は遠退く。「可愛いわね、本当に」瞬間私は茹蛸のように赤くなった。

「ロ、ロビン」
「あら、嫌だったかしら?」
「――…嫌じゃ、ないけど」

何故か恥ずかしい。可愛いだなんて言われ慣れているのに。決して自慢ではないけど。自信過剰と言いたければ何度も言えばいい。

「ロビン、俺も」
「フフフ」

ロビンは壁に寄り掛かり地面に座りルフィの頭を撫でた。私もロビンの隣に腰を下ろし、ルフィの頭を一発殴る。「いてぇ、何すんだナミ」、と舌を出しながら言う。あんたゴムだから痛くないでしょうが。ルフィは私から逃げるようにロビンの膝に擦り寄った。

「ロビン、膝温けぇな」
「ルフィっ!」

ロビンはくすくすと笑う。ルフィは穏やかに笑い頭を預けている。「航海士さんもする?」意地悪そうに呟くロビンに私は一瞬たじろいだ。ルフィをボコボコにしたい衝動を耐えて、唇を噛む。
(ルフィのやつ、よりによってロビンの膝に)
ルフィの頭が乗っていない方の膝をポンッと叩き促した。出来れば私だって、という欲もある。けれどここはプライドと理性に阻まれた。「いい、」と一言返せばロビンは笑う。そして私の腕を引っ張った。私はバランスを崩し横になる。すると頭に柔らかい感触が伝わった。それがロビンの膝だと認識するとまたも茹蛸のようにみるみる熱が篭り赤くなるのがわかっる。すると先程と同様に手の温もりが私の頭を撫でた。それがとても心地好い。隣では早速ルフィが寝息を立てている。あんたどんだけ寝るの早いんだ。

「航海士さん、最近夜寝てないでしょ?」
「それはロビンもでしょ」
「私はいいのよ。航海士は仕事での徹夜だわ。寝て頂戴」

ロビンの声も膝も頭を撫でる手も心地好くて気持ちいい。私は満たされるのを感じながら眠りに落ちた。











「おい、なんなんだ」
「なんてうらやわしいんなコノヤロー」

暫くたちゾロとサンジはその光景を見た。サンジは固く誓う。ルフィの晩御飯は抜きにしようと。ゾロは思う。二人共気抜きやがってと。睨むゾロと騒ぎ出すサンジにロビンは人差し指を口元に持っていき微笑んだ。












20100807












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