わんぴーす

□思
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きっと私はどうかしてしまったんだと思う。物事を最短で解決しようとしてまうことが日頃の私であり、それは幼少時代からの生き抜く為の判断力となっていた。だからなのか解決出来ないことに私はどうしていいのかわからなくなった。

航海士さんは言う
「仲間だ」と

ルフィは言う
「おまえはいい奴だ」と



それはどういったって理解しがたく解決出来ないことで、私はと言うとそれに甘えるようになってきていた。それさえも驚愕している。慣れなかった場所が今では心地好いと思うのだ。皆の笑顔が温か過ぎて、毎日楽しくて忘れそうになってしまうのだ。


「ロビーン」

自分を呼ぶ声に我に返る。部屋を見渡し声を主を探すが見当たらない。不思議になり首を傾げていると天井からいきなり板っきれが落ちてきた。そこから元気よく航海士さんが顔を覗かせていた。

「何をしているの?」
「サンジ君達が暴れて壊した板の修理よ」

ふと昨日の喧嘩が蘇る。剣士さんとコックさんの喧嘩は凄まじかったのを思い出した。でも今航海士さんがまた壊したように見えたけども、私が思案した通に姿は見えども長鼻君の悲痛な叫びが聞こえてきた。「お、おい。ナミ、おまえまた壊したろう」そう言えば「なんのことよ」と逆に怒った。
コンコンと戸を叩く音に「どうぞ」と言えば戸が遠慮がちに開き中からは船医さんと剣士さんが揃って中に入ってきた。船医さんは角を台にして板を運んでいて、剣士さんは面倒そうに欠伸をしている。
「やっと来た。ゾロあんた早く直しなさいよ」
「わーってるよ。なんであの糞コックは直さねーんだよ」
「サンジ君は昼食の準備よ。あんた文句あんならご飯なしよ」
「……すいません」
「ゾロはナミに弱いなぁ」
「うっせー」


笑い声が部屋に響く。するとルフィが遠くで騒ぎ出す。「腹減ったー。飯ー、サンジ飯まだか」陽気な叫び声はここにまで聞こえてきた。間髪いれずにコックさんは「飯だぞー」っと私達を呼ぶ。みんなそれを合図に笑顔で走り出すのだ。毎日が新鮮で柄にもなくドキドキしていた。次は次はと、小さい子供のようにさえ感じられた。

















昼食を取り終え、女子部屋に戻った。最近は甲板で皆と過ごすことが多くなってきている。が今日はそういう気分にも慣れなくて一人部屋で読書をしていた。暫くすると戸が開いた。ノックなしで此処に入る人物は私を除き一人しかいない。

「ロビン。皆呼んでたわよ」

「はい」っと茶色い液体が入った一つのグラスを置いた。びっしりと文字の行列から目を離し「ありがと」と航海士さんに私はお礼を言う。

「悪いことをしたわ」
「いいのよ、たまにはゆっくりしなきゃ」

ロビンは頑張り過ぎよ。とため息混じりそう告げた。頑張っているわけではない、私がそうしたいからしているのに。そう言えば航海士さんは苦笑した。

「ま、それがロビンだもんね」

そう言って満面の笑みを私に向ける。太陽のような笑みだと思う。最近はこの笑顔を見ると心の底から楽しくなる。向日葵もこの子の前では太陽よりもこの子の方に向くんではないかと言う程に。どうしようもなくこの笑顔が好きだった。

「航海士さんにはいつも笑って欲しいわ」

その言葉に航海士さんは呆然とした。そしてみるみる顔は林檎のように真っ赤になる。それが愛しいと思う。抱き締めたくなる。それに一番焦っているのは自分なのに。どうしようもない。一回生まれた感情を無くすのは容易ではない。ただ抑える、頭の片隅に置いて違う思考で埋めるのだ。でなければ漏れてしまう、この感情が。航海士さんは俯き加減に口ごもる。「ロビンは――…その、」
私は静かに次の言葉を待つ。けども航海士さんは頭を両手でくしゃくしゃにして「なんでもない」と叫んだ。

「気になるわ」
「忘れて」
「それは無理よ」
「いいのっ」
「航海士さん、教えて?」

一瞬グッと何かを堪えた仕種を取った。瞳は泳ぎ続け、わなわなと肩は揺れていた。それに気付いた私は怒らしてしまったのだと勝手に思い、急いで立ち上がり謝ろうとしたのだけど「ロビンは…」と言う声に私は口を紡んだ。

「ロビンは好きな人とかいるのかなぁーて」

その質問に私は考えた。好きな人。好きな人……。

「みんな好きよ」
「そういう意味じゃなくて」

装う航海士さんに私は目が点になる。そういう意味ではないと言うと、恋愛的な意味だとすぐに気付いて考えた。私はそういう気持ちがわからない。なんというのだろう幼少時代から逃げつづけた私にそういう気持ちなど持ち合わせていなかったから。強引にという事もあった、生き抜くために自らという時もあった。航海士を真っ直ぐ見るといつになく真剣な表情をしている。それにもまた新しい表情だと嬉しくなる。


好きな人、



いるわ。目の前に。



そうとは安々言えない。拒まれることが怖いから、なんたって同性でしかもクルーときたもんだ。これを告げたら駄目だと瞬時に悟る。かと言って嘘は付きたくない。それは航海士さんだから得にだ。


「いると言ったら、いるかもしれないわ」
「えっ!どんな人?」
「そうね。強くて優しくて、人の痛みがわかる子かしら」

私は真っ直ぐ航海士さんの瞳を見た。また何かを耐えるように顔を強張らせた。「そんな素敵な人がいるのね」などとあたふたする彼女にくすりと笑う。航海士さんそういう仕草しないで、自惚れてしまうわ。葛藤する航海士さんがふと顔を伏せ、目尻を下げ悲しそうな表情をした。

「航海士さん…?」
「そうかー。うん、」

顔を上げれば今にも泣き出しそうな瞳と交わった。それは一瞬の出来事。また笑顔が戻る。私はどうしようもない不安にかせられる。「じゃあ、皆のところ戻るね」
私はそう逃げるよう立ち去る航海士を追うことが出来なかった。









20100807











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