わんぴーす

□知る者は語る
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一息付いたのもつかの間。自身の机の上にある書類に目を通し、ロビンは何一つ表情を変えずに腰を上げた。

「また仕事?」
「ええ」

ナミのオレンジ色の髪が揺れ、溜息を付く。ふて腐れたその様子に私は苦笑した。

「なんか社長もロビンに頼りすぎじゃないの。仕事内容は?」
「暗殺」
「……物騒ね。そんなのルフィにやらせればいいのよ」
「無理よ。あの子が暗殺なんて出来るわけないわ」

精々、おおざたになって御用ね。おどけたように笑い徐に手を伸ばし白い手首を優しく取る。躊躇なく引き寄せ、前髪を掻き分けその額に唇を押し当てた。ナミは擽ったそうに目を細めて「それもそうね」と笑った。












秘密組織などこの世の中に五万といる。その秩序を保つ組織もやはり必要でそれがこの組織。言わば梯子役、時として必要な暗殺までもやり通すその組織は立派な悪行業者になるのだけども。素性は明かさず、もちろん個人情報など仕事の度に変え変え、決して人にさらけ出すなど言語道断。そしてこの組織は存在するのかしないのかの曖昧さで幻の組織と言われている。そこの書記担当がこの私。ロビンは一課を纏める偉い人、なんて言ったっけ?うん、忘れた。ルフィとゾロはロビンの部下にあたる。










ソファーにどっぷり脚を組み座る。彼女――…ロビンが出て行った扉一点を見つめてまた溜息が漏れた。最近は仕事依頼が大幅に増量しているため、此処一ヶ月、一切の休暇が削がれてしまった。つまらない、暇だ。いや、暇ではないのだけど……やらなければならないことは山積みなのだけど。机の上に乗る無数の紙の束に半ば呆れた。それを見つめるもやる気など到底出てくることなくそのままの状態で現実逃避を試みた。私は時計を横目で見てハッとする。あっ、そういえば……、――…部屋の奥にある仮眠部屋を慌ただしく蹴り開けた。

「ルフィ、ゾロ。あんたたち仕事よ」

怒鳴るように言うも起きる気配は微塵もない。一回で起きろ、この馬鹿。顔をしかめ、仰向けで寝ているゾロの腹の上に飛び乗った。
「ぐあっ」
「お・き・ろ」

いきなりの衝撃に驚愕し、痛かったのかお腹を抑えて悶絶。まあ、痛いだろうけど、私はそれを無視して立ち上がり隣で寝るルフィの顔目掛けて踵を落とした。

「いでぇっ!!」

こちらも顔を抑えて悶絶。二人を交互に見ながら「仕事」と告げ呆気なく退散する。このままここにいるとゾロのとばっちりが来るのだ。ま、とばっちりではないんだけどね。私がやったから。

「何すんだナミー」

痛みに歪めた顔が私へと向く。その後ろにはこれでもかと言う程、阿修羅の顔をしたゾロがいた。

「あんた達が一回で起きないからよ」
「ロビンはもっと優しく起こすぞ」
「ロビンはロビン。私は私なのよ」

と言うより、あんた達ロビンに起こしてもらうなんて度胸あるじゃないの。私のよ、ロビンは私の。まだ、ぶーぶー文句を言うルフィを一睨みして威圧し黙らせた。

「おい、ロビンはいないのか?」
「仕事よ」
「えー、最近会ってねぇー。なんの?」
「暗殺だそうよ」
「暗殺?」

その言葉に反応を見せたのは意外にもゾロだった。ふと何かを考える仕草を取り、一応何かあるのかと私は答えを待った。
「俺の仕事だ!!」
「お前のかよ!!」
目を見開き告げた一言に私は拳を作り殴った。コノヤロー、ロビン最近寝てないんだからね。あんたら仮眠室で三時間以上寝てるくせに。まず、それ仮眠て言わないでしょうが。睡眠よ。れっきとした。

「俺にとっちゃ仮眠だ」

黙れ糞ゴム。無駄に伸びる頬を引っ張り、顔を近付かせた。

「なんか言った?」
「いっひぇまへん」

手を離せば伸びた頬が勢いよく元の場所に戻り、またルフィは顔をしかめた。

「で、あんた」
「あ?」

殴る、殴る。連発に。脚も出た。「あ?」じゃないわよ。あんたのせいよすべて。

「電話しなさい」
「もう、行っちまったんだろ?」
「だから早く電話しろって言ってんのがわからない?」
「――… わかります、」


渋々、ゾロは自分の携帯を手に取り耳に当てた。直ぐに出たようだ、音洩れしてロビンの声が聞こえた。

「あー、俺だ」
「敬語使え!!」
「あだっ」

頭を叩いた。うん、いい音がした。脳みそ入ってないんじゃないの。ゾロはこれでもかと私を睨んだ。ロビンにも私の声が聞こえたのだろう、そして状況を浮かべたに違いない。「ふふ」と笑い声が音声からした。

『いいのよ、敬語ではなくて。そのほうが嬉しいわ』
「ほら見ろ。ロビンはタメ語でいいとよ」


大人げない。舌なんて出して。それに苛立つ私も私だけども。歩が悪い、「早く用件伝えなよ」と私は話を変える。それにゾロはハッとして恐る恐る「あのな」と口ごもった。

「怒るなよ?」
『ええ?……わかったわ』
「今ロビンに渡ってる仕事俺の仕事なんだ。すまん」

てちがえでロビンの机に行っちまったらしいんだ、
どんどん音量が小さくなる、本当に申し訳ないとは思っているらしい態度に私は満足した。さぁ、怒っていいわよ、ロビン。そう思ったのにロビンは予想に反したことを言ったらしい。ゾロが「へ?」と呆気に取られていた。

「今なんて?」
『え?だから、知ってるわよ』


驚くゾロに、私とルフィは何がどうしたのわからない。段々と苛立ってきた私はゾロから携帯を奪い取り、スピーカーに切り替えた。

「ちょ、ロビン。戻ってきて」
『ナミちゃんね、でもなぜ?』
「なぜってそれゾロの仕事でしょ」
『ええ、知ってるわ』
「へ?」

今このお姉様はなんと?ゾロの仕事だと知ってて行ったの?何をしてるんだあんたは。

『だって、気持ち良さそうに寝てたからつい』

ついってあんた。そうやって甘やかすから仮眠を三時間も取るのよ。教育に良くないわ。頭が痛くなった。ルフィ煩い、今私がロビンと話してるのよ。邪魔しないでくれる。それでもこの部下思いなお姉様に頭を悩ましているんだから。

「ロビン、あんたも寝てないでしょうが」
『明日休暇だわ、大丈夫よ。』


そーいう問題ではない。

『心配しないで、すぐに終わるから』

ロビンが電話越しに笑った気がした。瞬間、私は身体全体に悪寒のようなものが走る。背中を撫でられたそれは正に狂喜。一瞬で理解した。ロビンは仕事を楽しんでいる。この上なく、それは無邪気な子供のように。こうなればロビンは絶対に有言実行する。私は一言「わかった」と返し、携帯を切った。

「ロビンどうするんだ?」
「やっぱ今から俺が行く」
「したら俺も行くー」
「やめといたほうがいいわよ」

どういうことだとでも言うように眉を寄せたゾロと、「なんでだー」と頭に疑問符を浮かべるルフィに私は不適に笑ってみせた。




「あんたたち、巻き込まれるわよ」



ロビンに限ってそんなことは有り得ないとは思う。ロビンは仲間が傷付くのを嫌う、それは自分の部下なら尚更で巻き込むなんて絶対と言っていいほどないとは思う。けども、こうなったロビンは止まらない。ギャンブルをするようなそんな軽い感情で遂行する。それは一人の仕事限定なのだけど。


「あんた達まだ知らないでしょ?」


二人に私は念を押すように言う、


「ロビンを怒らすのだけはやめといたほうがいいわよ」

















20100809













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