あざー

□凍てつく刃も氷も
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凍てつく刃も氷も











一瞬の光りが、闇に閉ざさ
れた森を貫いた。数秒後、
腹の底に響いてくるような
轟音。佐助は地響きに足を
取られ、立ち止まる。すれ
ば木のしなる音と何かが風
を切る音に瞬時にその場か
ら飛び上がった。今遠退い
た真下を見遣ればクナイが
数本刺さっている、――来
た。アナの野生の勘に感謝
しつつ、目の前の敵を見据
えて、冷静に鋭い刃を片手
に飛び付いた。     

「何者?」       

無駄だと理解しているが呟
くも、やはり返答は無言。
ならばと、よりいっそう脚
の踏み込みに力を入れ懐に
入り、首の頸動脈を一達。
一線入れられたそこからブ
シューっと生々しい赤い血
液が血飛沫となり空中を舞
った。直ぐに隣に居た忍び
の足元を蹴り、地面に伏し
た頭部にクナイを振り上げ
、刺す。蛙が潰れたような
醜い声を上げ、痙攣する身
体を冷たい瞳で一瞥しまた
構えた。残る忍びは渋る。
が、何を覚悟したか瞳が怪
しく光った。なんだと身構
えるも一人が無謀にも突進
、躊躇うことなく佐助は心
の臓があろう場所をひとつ
きした。呆気ない。そうで
もして命を投げ出すのか。
忍びと目が合った、何故か
笑ったように思えて、ゾク
ッと嫌な感じが佐助の身体
を支配した。――離れなけ
れば……。そう思うも既に
遅かった。腕を引こうとす
るもそれはまだ虫の息だけ
の男に掴まれ離れることも
出来ない。ズシャ、   

――「え?」      
零れた声と同時に反対側の
腕を見て驚愕した。腕を伝
う血液は敵の忍びの者、ま
さか…。自分から刺さりに
。呆気に取られ背後の気配
に遅れを取った。瞬間に脇
腹に走る激痛に顔を歪め、
歯を食いしばるも隙間から
堪えるように声が漏れた。
「ぐっ、」       
内臓が軋むと同時に筋肉に
包まれた骨が凄い音を立て
て割れた。痛みに顔を歪め
るも直ぐに次が来ると踏ん
で無理矢理、両の手の自由
を奪う身体を思いっ切り投
げ飛ばした。次にその場を
飛びのき臨戦態勢を取る。
肋骨の一、二本やられたに
違いない。佐助は内心毒づ
いた。ふと、追っ手の瞳が
揺れ、目を細めたことに気
付き間合いを確認した。―
―… 来る。瞬時に判断は
したが痛みに少しばかり反
応が遅れ、目の前に迫る切
っ先を間一髪で避けた。そ
の場に茶色い錦糸の束が落
ちる。ハッとした瞬間、背
後の気配に気付くがこの態
勢から回避は難しい。討ち
取ったとばかりに口元の布
越しから口角を上げ、二人
目は容赦なくクナイを喉元
目掛けて振り下ろした。 

―… ヤバイ。     
避けられない。     

次に来る衝撃を覚悟して腕
で遮った。       

――…  が、――   

「ぐあっ」       

覚悟した衝撃は来ることは
なかった。その変わり悲痛
な男の叫び声とスロモーシ
ョンに崩れていく身体、そ
の身体から突き抜ける透明
感に紅い液体を散らした氷
といった光景が飛び込んで
きた。その次に見た人物に
安堵する。すれば清らかな
指先を突き出し、顔すれす
れに飛び行く氷の刃に顔を
引き攣らせた。―― 掠っ
た。アナ、掠ったよ。冷や
汗と共に頬から僅かに一滴
血が流れる。その氷の行き
先を見れば男が額を貫かれ
倒れていた。      

「あんた、よそ見する前に
後ろの団体さんどうにかし
て」          
「だ、諾っ」      

某もまだまだ故。安堵など
この場を潜り抜けてからだ
ろうに。言葉と同時に二人
は地面を蹴り、暗闇に塗れ
る忍びの群に飛び込んだ。














辺り一面は氷原。佇むは二
人のみ。佐助は息を吐いた
。すれば季節に反して息は
色を出した。―― 白い息
だ。冷気は身体を包み、そ
れが身に染みた。良く見れ
ばアナスタシアにも幾つか
の傷が見受けられる。生肌
に生えるそれから流れる血
を氷で止血してるらしい。
「アナ」――名を呼ぶが微
動だにしない。横目で見遣
ればアナは無表情に氷に移
る自分を見つめていた。ま
るで愚か者でも見るように
。           

「アナ、屋敷は?」   
「氷で囲んだわ。それに六
郎に任した。でもすぐ、帰
るわよ」        
「諾」         

やっとのことでアナの瞳に
己が写りホッと胸を撫で下
ろした。        

「アナ、礼を言う。ありが
とう」         
「いいわよ、それより大丈
夫?」         
「大事ない。アナも…」 

平気よ、――アナは呟き緩
慢な動作で距離を縮めた。
こんな時思うことではない
けれど銀世界にいるアナは
幻想的だと思うのだ。ふと
、目の前まで来たと思えば
遠慮がちに柔らかい指先が
頬を撫でた。すればチリッ
と染みて、そういえばと苦
笑を漏らし笑う。一瞬たじ
ろいだが、そのいきさつを
あたかも他人がされている
ようにさえ思えて違和感を
感じた。それがおかしくて
また苦笑した。     

「あーあ、綺麗な顔が台な
し」          

誰のせいだ。誰の。悪びれ
もなくヒラヒラと手で仰ぎ
細めで笑うアナの姿に一瞬
叫びそうになるが、それよ
りも今の言葉おかしくない
だろうか。――… 綺麗っ
?男が綺麗など言われて嬉
しいわけがない。しかし、
反して顔に篭る熱はどうい
ったって、照れているよう
にしか思えない。自分の手
で口元を押さえてうなだれ
た。          

「うぶねー」      
「煩い――…つっ」   
「叫ぶと痛いわよ」   

子供扱いなどされたくない
。そう思うのに状況は何時
も打破することが出来ない
。悔しさもある、それより
も自分が男として見られて
いないんではないかどうし
ようもなく不安になるのだ
。           

――…「はい」 ほおり投
げる包みを受け取り怪訝な
表情を浮かべれば、溜息混
じりに「変なもんじゃない
わよ」アナはそう言った。
包みを丁寧に開ければ白い
粉薬が出てきて驚愕する。
――… まさか。    

「大胆な暗殺だ」    
「違うって言ってんでしょ
ーが」         

違うのか。ではこれはなん
なのだろうか。首を傾げて
怪しい瞳でその薬とアナを
交互に見た。      

「痛み止めよ、飲んどきな
さい。」        

これから来るであろう敵、
それなりに怪我をすれば厳
しいだろう。その配慮が歯
痒かった。それを噛み締め
いざ、薬を飲もうとするも
肝心なことに気付きその手
を止めた。       

「アナ、水」      
「餓鬼か!!」     

今日何度目かの溜息。――
…生憎これしか持ち合わせ
ていないわ、そう呟きなが
ら胸の谷間から少量の水が
入った筒を出した。何処か
ら出してんだ。けしからん
。大胆な行動に佐助は受け
取る手を止めた。アナは常
に大胆極まりない。素直に
受け取るが自分の思考はま
た別の所へ。「照れてるの
?」そう尋ねニヤニヤする
アナを一睨みした。   

「つれないわねー」   

ふて腐れたまね事を無視し
て薬を流し込んだ。直ぐに
、アナスタシアは「行くわ
よ」と足に力を入れ目の前
の木に飛び移る。佐助は間
に流れ出す風に乗り後を追
った。         















20100826














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