あざー

□足下のピースを拾い集めてつぎあわせた模型図は、(変哲な個性の集まりでした)
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 オール(秋名視点)




ブランコや滑り台、ベンチに砂場。一
般的な極普通の公園にお世辞にも綺麗
とは言い難い、寧ろ古いというよりボ
ロい建物が立っていた。      


―― "比泉生活相談事務所"    


実に胡散臭い、この町に初めて来て、
住み、問題を抱えて足を運んだ者は皆
口々にそう言うだろう。うん。俺も思
う。思うけどその所有者が俺。   

心配はない。此処にはそれなりの実力
者を有している。         




紙には綺麗な活字が並べられ、それを
手に持ち掲げて見る俺はソファーに身
体を沈める。何やら事件があったよう
だ。引ったくりねぇ、この町をターゲ
ットに選んだ犯人に同情したくなる。


俺は紙を無造作にテーブルに置いた。


(ま、捕まるのも時間の問題か、)  

この御時世犯罪なんて多数あるだろう
が此処での犯罪は否応なしに刑務所行
きの決定権がもれなくついてくる。 

(まぁ、悪人に同情してもねぇ…)  

脳裏に浮かぶしかめっつらの町長の顔
が浮かんで苦笑した。       

「ちょ、秋名さん。寝ないで下さい」

響く声主はただ一人。今は俺とその子
だけ。              
その可愛らしい声にうっすら瞼を上げ
ると蒼色の瞳が困ったように笑った。
頭の下で組んでいた腕がそろそろ痺れ
かけていた俺は身体を上へずらしソフ
ァーの腕起きに頭を置いて欠伸を噛み
殺す。              

まだ、いいでしょ?どうせ暇、今日は
平和。そう思うもそれは自己処理して
口には出さない。その代わり眠たげな
瞼を閉じて心地好い眠りへといざスカ
イ。               

意識が遠退くフワッとした感覚を堪能
しようとしたまさにその時、腹に加わ
った人一人分の重みに俺は思わずウゲ
ッと唸るような声を上げた。    

片目を開ければ蒼い髪。ぷぅーと膨ら
んだ頬は機嫌を損ねている模様。  

「アオー、まだいいだろー」    
「駄目です」           

怠そうに言えばアオは頭に生える耳を
ピクピクと動かした。覗き込むように
して見るその顔は些か眠そうなのは気
のせいだろうか。         

「もーすぐことはちゃん来ます」  
「え、もうそんな時間?」     
「はい」             
「じゃあー起きますか」      

上半身を起こしよりいっそう縮まった
距離にアオは本当に小さいなぁ、とし
みじみ思う。アオは跨がる足を横に出
して地面に着地。うん、100点満点だ。
                  

寝癖を直しつつ立ち上がった俺はアオ
の蒼い髪に手を起き撫でた。アオは嬉
しそうに微笑み反転。スルッと手から
逃げてソファーにねっころがった姿に
、――ん?と笑顔をそのままに固まっ
た。               


「じゃあ、次は私の番ですね」   

やっぱり眠かったらしい。俺が寝て、
自分が寝れないから拗ねてたようだ。
――…おやすみなさぁーい、 元気の
良い子供は言うや否や既に夢の世界に
飛び立った。           

「なんだよー、お前その場所が欲しか
っただけじゃねーかぁッ」      

硬直状態から解けた俺は一喝。結構な
音量だったのに、寝息を立てるアオは
至って起きる気配はなかった。返事も
ない。その変わりと聴こえた『ボール
』と言う声と共に襲ったのは何故か頭
への衝撃。            

「 あだ―…ッ」         

ボコッと鈍い音がした。悶絶する俺の
視界にはポンポンと床に撥ねて壁にぶ
つかったサッカーボールと     

「ちょ、煩い。アオ寝てんだから静か
にしてよ」            

学生鞄を持ち、舌をちらつかせたこと
はが立っていた。         

「ったく、大人げないわね。本当…。
可愛い可愛いアオを襲おうだなんて止
めて欲しいよ。あぁ、考えただけで泣
けてきた」            
「…勝手な回想をするなぁっ」   


後ろ手でドアを閉めたことはの頭がイ
ッてしまったようだ。うるうると瞳を
潤ませヒラッと周り、今度は射ぬくよ
うな鋭い目で睨まれた。あぁだ、こう
だ言うのも億劫だった。何故なら妄想
を膨らますことはは現実を超えてゆく
からだ。そうこうなっては何も聞く耳
を持たないのが特徴だったりする。 

「どうせ、今まで寝てたんでしょ?」
「な、何故それを…」       
「顔に書いたある」        

あとその寝癖ね、と指摘した指は頭を
指した。やばい、と慌てて直すが戻っ
てしまう髪に冷や汗が滲む。    

あー、あー。俺は寝てない。休憩して
たんだ。悪くないって。ごまかす俺と
鞄を置き自席に座ることは、そしてそ
れを打ち破るように勢い良く開けられ
たドア。そこに居たのは何時も通り目
と眉を吊り上げたヒメが口をへの字に
して立っていた。         

顔面蒼白。口は笑うも目は笑えず、こ
とは見ればニンマリと笑っているが何
やら楽しんでいるご様子で。実にタイ
ミングの悪い。俺は寝癖が見えないよ
うに手で抑えて何もなかったかのよう
に挨拶を交わした。        

「よっ、ヒメ。どうしたぁー?」  
「いやぁ、何。ちょっとね。最近引っ
たくりが多発してるみたいだから」 
「ああ、あれね。」        

無造作に置かれた書類を一瞥。この件
については何も調査していない。それ
に加えて呑気に寝てたなんてこの真面
目で怖い町長さんは迷わず俺への咎め
を実行するに違いない。      

「早々に処理しなきゃいけないんだけ
どって、秋名その手なに?」    
「へ?何って何が?」       
「さっきから抑えてるその手」   
「べ、別に何でもない」      
「しかも眠そうだな。寝てただろ?」
「そそそそ、そんなことあるわけない
だろーっ」            
「寝てたんだな?」        
「いや、ちが…ッ」        
「寝てたんだな?」        

言い返せなくなった。その圧倒的な威
圧感でいつの間にか後ずさっていたよ
うですぐ後ろは壁。後がなくなった。
助かる術を、助かる術を、     

「事件の調査もしてないのに寝てたな
んてばれたらヒメに殺される」   
「へ?」             
「だって、ヒメちゃん」      

声のした方を見るといつの間に起きた
かアオが笑っていた。       

アオぉぉお。           

声にならない絶叫。それはこの世のも
のとは思えぬほどの。       

一人焦る額には零れんばかりの汗がダ
ラダラと伝う。          

なんてことをしてくれた?これで俺の
逃げ道が絶たれてしまったではないか
。                

威圧感が増す。殺気だった。引き付く
頬をそのままに恐る恐るヒメを見て驚
愕。物凄い形相をしたヒメがこめかみ
に青筋を作りこちらを睨んでいた。 

「ことは」            
「ん、『棒』――…はい」     
「ちょっとことは、何してくれちゃっ
てんの?」            
「どうにかして逃げようだってさ」 
「アオぉぉお」          





此処は"比泉生活相談事務所"    


実に胡散臭い、この町に初めて来て、
住み、問題を抱えて足を運んだ者は皆
口々にそう言うだろう。うん。俺も思
う。思うけどその所有者が俺。   

心配はない。此処にいる者は腕が立つ
。そして力もある。能力もある。  

そして何より怒らせると怖い。   


今日も一人、一般ピーポーな俺は苦渋
の叫び声をあげる。        







足下のピースを拾い集めて
つぎあわせた模型図は、





―――――
変哲な個性の集まりでした









20110106






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