けぃぉん

□さぁ、手を打ちましょう
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窓際、最後尾、日当たり良好。そこは
教室の中でも一番の激戦区。クラスの
ほとんどの人間がそこを狙う。私だっ
てその一人だった。なのに席替え後の
休み時間、そこを手にした勝利者の彼
女は何故か憂鬱そうに座っていた。そ
こに座ってあからさまに嫌がる人なん
て初めて見た。私なんかなぁ、教卓の
前だぞ?一番前。教卓前だから黒板だ
って見にくいし、何より天敵のさわち
ゃんが目と鼻の先。これから二ヶ月こ
こで過ごさなきゃならないと思うと私
のほうが憂鬱になる。逆にそこの席に
なったら大きくガッツポーズして自分
のクジ運を讃えるわ。       

「どうしたんだ?」        

そんな暗い顔しないの。何がそんなに
嫌なんだ。ここ最高じゃないか。  

「………から」          
「へ?」             

虫が鳴きそうなほどか弱い声に私は澪
の答を聞き逃した。周りががやがやし
てるため掻き消されて余計に聞こえな
い。               

「ごめん、良く聞こえなかった。もう
一回」              

申し訳なさそうに聞き返す。内心全く
申し訳ないなんて思ってないんだけど
。なんたって澪の声が小さいのも、こ
ういったことも数えきれないほどあっ
たから。だから毎回澪は頬を赤らめて
「もー」っと再度言葉を言ってくれる
のに、今回ばかりは違った。澪は困っ
たような、怒ったような複雑な顔をし
て俯いてしまった。そしてまた上を向
いて私の瞳を見つめたと思えば、また
視線を反らして意味もなく机の上の筆
箱弄った。            

「みーおー」           
「……」             
「おーい」            

ダメだこりゃ。心ここにあらず。――
 確かにちゃんと聞いていなかった私
も悪いけどさ、何か怒らせることでも
したか?             

「律の馬鹿」           
「ほへ?」            

どうしようか考えていると突然聞こえ
る澪の声に変な声が出てしまった。い
きなりなんだよ、みおしゃんは……。
苦笑を浮かべてふて腐れる澪を凝視し
ていると今度ははっきりとその理由が
聞こえた。            

「席、離れちゃったから…」    


―― 律の隣が良かった      

澪は相変わらず視線は斜め下。無意味
にシャーペンを回したり、消しゴムを
出してしまったり。意味のない行動を
続行中。長い黒い綺麗な髪から覗く耳
は真っ赤。―― 日当たりのせいじゃ
ない。そう思えば自然と頬が緩んで、
緩みっぱなしでしかたなくなる。にや
けそうな口元を必死に手で覆い隠しな
がら、取り合えず次の席替えはずるし
てでもこの可愛らしい彼女の隣に座る
んだとそう決めた。        














さあ、手を打ちましょう









20100918







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