けぃぉん

□思春期
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りつ、りつ…            



今にも泣きそうな表情で彼女は私を睨ん
でいる。怒りも哀しみも入り混じった感
情の集合体であろう。泪を目一杯に溜め
込んで、声にならない嗚咽を飲み込む。
―― バカ、律のバ、カ       
長い睫毛が上下に動くと同時に零れたそ
れを引きがねに目の前の彼女は悔しそう
に泣く。下唇を噛み、眉間に皴を寄せて
震える身体を堪えて。その度黒い髪が揺
れる。なぜ、私はこんなにしてしまった
んだろう。考えても考えても私の脳では
解らない。大切な幼なじみ。今は形を変
えて大切さは増して、彼女を守りたかっ
た。守りたかったのに私が彼女にこんな
表情させてしまっているではないか。頭
の中の記憶を掘り返そうとも霧がかかっ
て霞んでいる。全てがぼやける。まるで
脳内の濃霧が蔓延しているようだ。気が
つけば彼女はいない。私の中から消えて
いく。一瞬で訪れた不安も恐怖も私は感
じるままに不備な私は動けずにその場に
いた。不安で、不安で、私は彼女がいた
場所に腕を伸ばした。黒い空間にはなに
もないのに、確かに私の腕は彼女の腕を
掴んでいて、すぐに顔をあげた。すれば
彼女の大きな瞳が私を見ている。いまだ
に泪を溜め、目を見開く。それでも、そ
れだとしても私の顔には安堵の笑みが浮
かぶ。こんな顔してたら殴られてしまう
かもしれない。それでもいいと思ったけ
れど中々覚悟していた刺激はなくて、そ
の変わりとポカーンと口を開いて止まっ
てしまっていた。          


「ごめん、」            


やっと重要な何かを掴めかけて自然と零
れた言葉。違う。これじゃない。こんな
ことじゃないんだ、私がしなければなら
ないことは。昨日、そう昨日だ。彼女と
向き合えなかった私は謝るばかりで傷付
けて、歪んだ顔が崩れてその場にしゃが
み込んだ。そんな言葉いらないよ、律。
気付いて。そう言う彼女はいつでも私の
ことを考えているのに。腕を掴んだその
手に力を込めた。引き寄せて、感じた温
もり。縋るように私のシャツを強く握っ
てシワを作った。ああ、そうだった。虚
しい葛藤を繰り返したどり着いた答えは
彼女を抱きしめること。       








20100928












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