けぃぉん

□ジ・エンド
1ページ/1ページ


終わった。             
何もかもぜんぶ。ぜんぶ終わったんだ。
ゲームで言えば完全に無防備で敵に突進
していく自殺行為。そんでもってなんな
くそのままゲームオーバ。      




ジ・エンド








「好きだ…」と告げた乾く唇からはこれ
以上言葉が出ない。カラカラに乾くのは
喉、心。計り知れないほどの緊張感。も
う駄目だと思った。これ以上ここに入ら
れない。こんな真っ直ぐに見られていれ
ば怖くなって当たり前だろう。何も言わ
ないんだ。考えてるのかも、哀れんでい
るのかも、はたまたこいつ馬鹿なんじゃ
ないのとか思ってるのかもしれない。恐
怖あまり目をそらした。もう見てられな
い。ギュッと目をつぶり、下唇を噛み締
めれば小さく聞こえる溜息。私はそれに
身体を強張らせた。何か言われるんじゃ
ないかと動転した私はどういったことか
頭がおかしくなってしまったのだろう。
どうにかしてごまかそうと慌てて顔を上
げ、あーだこーだと並べる屁理屈とごま
かし。あげくのはてには開き直ったよう
に「好きになっちゃったんだよ、しかた
ないだろ」だなんて……本当私はなんて
馬鹿なんだろうか。         


「いち…」             


遮ったそれに目をこれでもかと開けば直
ぐに離れた。じんわりと柔らかさと温も
りを確かめるように唇に指先を持ってい
ってもやっぱりぬるくて錯覚じゃないか
と目を点にして呆然といちごを見るのに
いちごは段々と表情を穏やかにさせるも
んだから驚いた。そんな顔するんだなぁ
ーなんて初めてみたいちごの表情になん
のことはない。私はまだまだいちごのこ
とを半分も知ってないんじゃないか。そ
う思うや否や微量にあった自信など木っ
端みじん。というか最初から自信なんて
もんはなかったんじゃないだろうか? 

「ねー…」             
「は、はい」            
「そんな緊張しないで」       
「は、はい」            
「……」              


なんだその目は。するに決まってんだろ
。しないほうがおかしいに決まってる。
この状況下でも意味わかんないのにいち
ごがそんなことするから変に期待しちゃ
うだろ。              


「知らないよ」           
「へ」               
「私そんな簡単な女じゃないの」   

わかるでしょ?淡々に宣告された事項、
そんなの最初から調べ積みだ馬鹿。と叫
ぶように言えばまた開く口。     


「つんけんして可愛くない…」    
「それでもいい」          
「感情表現が下手…」        
「ぜんぶ受け止める」        
「私ドSだよ?」          
「えぇー…、」           

薄々感じてたけどドSなのか?慌てる私
をよそにそんな私を見てくすくすとわか
らない程度に笑った。くそ、なんでもか
んでもいちごのペースだ。そんなんでも
いいんだよ。いちごのペースに私が最初
にハマッたんだから。それで…。だから
最初の最後ぐらいきちんと言おうじゃな
いか。               



「私はいちごが好きだ。そんないちごが
好きなんだ。だから私と付き合って」 


一息入れることなく、しかもだ噛まない
で言えた、それで満足だったのに。いち
ごがちゃんと笑って「はい」なんて答え
るからまたへたれた自分が出てくるじゃ
ないか。おい、田井中。ここで嬉しがっ
てかっこよくキスだろ。動け動け。と滲
む手汗を握り締めたけれどガチガチじゃ
ないか。格好悪い。するとどっこい、い
ちごからその固く閉じられた手を解いて
指を絡ませてきて、それにあたふたして
いるのに追い撃ちをかけるように目を細
めて段々と近付いて唇と唇を重ねて、放
心状態。そのままヒラッと主を返すいち
ごはまた無表情。というよりいつもの何
考えてるかわからない顔。そして去り際
に「次、目ぐらい閉じなさい」と捨て言
葉をはいて忽然と姿を消したのだ。こん
な私の後始末を誰がすればいいのかなん
て自分以外いないじゃないか。    













20101005








[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ