けぃぉん

□それが陳腐だったとしてもいいんだよ、要は何が重要で大切か。ただそれだけ
1ページ/1ページ


終わることを悔やんだ。終わらない道が
あればと願った。一体あとどのくらいの
時間を共有することができるだろなんて
考えて、それが余りにも途方に暮れそう
な事柄だった。           


 まだ途中だよ、        そうやって笑いあった     私たちだから        



終わることを悔やんだ。終わらない道が
あればと願った。          

それが始まりを否定してると気付かぬま
まに私たちはまだ物語の始まりだよと笑
った。               














泣きながら「卒業しないで」と言ったあ
の頃が今では恥ずかしいながらもいい想
い出だった。色褪せて、また新しい想い
出に塗り変えられたって根強く残る気持
ちも想い出も今でも思い出せた。積み重
ねた事は決して間違っていなかったんだ
と今だからわかるんだ。       


「憂、純…ありがと」        


二人が居たからという理由も、私の先輩
が先輩達だったという理由もきっと相対
的な事実なんだと思う。でなければ今の
私はとっくに消えうせて海の底深くに眠
るように高校生活を持て余していたに違
いない。              

「うーうん、梓ちゃんが居たから入った
んだよ」              
「そーだよ。気にすんなって」    



新入部員はたったの二人。まだ良い方だ
ったかもしれない。それでも憂と純が入
ってくれた時は泣いて喜んで何度も何度
「ありがとう」って繰り返したけど、二
人は自分が入りたいから入ったんだと告
げた。それが私のためじゃなくて、私が
居るから惹かれたと言うのだ。先輩達の
ライブを見て入ろうと思った軽音部は決
して真面目とか上手いとかそんなんじゃ
なかったけど惹かれる何かがあって、そ
れにまんまと捕まった虫は私だった。私
は輝けていたのだろうか?惹かれる何か
を持っていたのだろうか?      


「馬鹿だなぁ、梓は…そんなの当たり前
だろ」               


純は優しくはにかんで親指で後ろをさし
た。後ろには真っ赤な目をして必死に涙
を堪える後輩が居て、今にも弱音を吐き
たい唇をギュッと噛んでいた。きっと私
が望んだ"先輩"という理想像は思ったよ
りも難しかったんだと思う。一年で経験
した先輩達との想い出も、くだらないだ
なんて一言で終わらしていた事だって今
ではかげえのない私の中の経験で、二年
になって最後という言葉が浮かんで無性
に悲しくなった。淋しくなった。それに
堪えていた日々も、必死になって最後と
いう名札つきの演奏だって練習して練習
して、成功したときの喜びも楽しさも達
成感も全部、全部宝物になった。そうし
てやがてやってくるお別れも見ないフリ
なんてできなくて、その日に始めて人生
最大の我が儘も感情もすべて吐き出した
気がする。きっとそれが理想像。私の先
輩と軌跡がそうさせて、いなくなった先
輩達の後継ぎだって理想半分に迷路を爆
走してきた。            


(先輩、梓先輩…)          

ついに泣き出した後輩を見てせつなくな
った。わかるよ、その気持ちも不安も、
ごめんねなんて言わないけど弱音ならな
んでも聞くから。          


(卒業しないで、ください)      

―― 何しててもいいですから……だか
ら先輩、お願い、します       



これが理想像。私の軌跡の証。そうして
輪廻していくんだと思った。     



「うん、ありがと」         

決してお別れじゃないよ。これは始まり
。彼女達の軌跡になる。       


「学園祭だって新歓ライブだって見に行
くから」              


やんわりと二人を抱きしめた。ギュッと
すべての気持ちを吐き出すように。以前
の自分を自分で抱きしめるように。こう
して継がれるんだとわかって欲しい。 


「大好きだよ、」          




私はまた一つ歳をとった。出会いがあっ
た。別れもあった。その中に詰まったも
のがかけがえないものだと大切にしまい
込んで新しく積み重なった想い出を復習
するかのように瞼の裏で蘇らせて、そう
してまたしまい込んだ。       



そうしてまたその背中を追っていくんだ
。                 







それが陳腐だったとしても、
要は何が重要で大切か。   
ただそれだけ        














20101008












[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ