けぃぉん

□隣人を警戒しなさい
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耳から流れる爆音に指を弾きながら部屋の
ベッドで俯せになった私のところに逃げる
ように訪問してきた澪は何故か涙ぐんでい
た。勝手に家に入ってきたとか、ノックな
しに部屋に入ってきたとか別にそんなのに
問題はない。私が問題視しているのは何故
澪が泣いているのか、ただそれだけ。直ぐ
に体を起こせば勢いよく飛びつかれてバラ
ンスを崩したけれどベッドだったのが幸い
して痛くはなかった。これはヤバいと気付
いたのは胸に擦り寄るように顔を埋めた時
で、握るシャツから感じる温もりとか密着
する身体とか、私に滴り落ちる涙の生暖か
さとかもう殺人的に私を追い込むそれでし
かなくて、抱きしめそうになった腕を無理
矢理引っ込めてごまかすように頭を乱暴に
撫でた。               

「みーお」              
「りつッ…」             
「……澪、どうしたんだ?」      

自分でもおかしいぐらいに優しい声が出て
良かったと思う。それに応じた澪は胸に埋
めていた顔を上げてその赤くなった瞳で私
を見た。―― ドクン、と…一つ。心臓の
音。なんだってこんなに近いんだろうか。
極めつけに潤んだ瞳で上目遣いときた。そ
れでもと今は自分の俄よりも大好きな澪の
ためにと、必死に押し黙れば私の心情を知
ることのない澪はぽつりぽつりと話し始め
た。                 

(今日、…いきなり他校の男子に告白され
て、…今日律に言った奴なんだけど。律に
言われた通りちゃんと断ろうとしてその手
紙にあった場所に行ったんだけど、ちゃん
と断ったし、直ぐに帰ろうとしたんだけど
ね。いきなり腕掴まれて――…)    

そこで突然口ごもる澪は顔を真っ赤にして
歪む顔を伏せた。なんか嫌な予感がするの
は私の勘違いとかではなくてこういう話し
の流れからして私が一番嫌なことを澪はや
られてしまったと瞬時に理解してフツフツ
煮えたくる何か得体のしれないモノが込み
上げてきた。             

(―― キ、ス………されて。)    
例えば私があの時着いて行ったらこんなこ
とにはならなかったかもしれない。澪が泣
くことも、私がこんな気持ちになることも
、全部なかったのに。フツフツと煮え立つ
気持ちに終止符を打ったのはそんな感情だ
った。                

(律、りつ、…嫌で嫌で、しかたなくて。
ごめんね、ごめん。)         

なんの謝りだろうか。分からずに私に罪悪
感からの言葉を繰り返す澪はまた泣いてい
た。友達で、親友…か。        

「澪、」               

まだ啜り泣く澪の身体に腕を回して強く抱
きしめて、頬に流れる涙を舌で拭った。一
瞬事の起こりようがわからなかったのだろ
う、澪はキョトンとした後、顔や耳さえも
林檎のように真っ赤になった。     

「りつ…」              
「いや?」              

その男みたいに嫌か?気持ち悪いと思うか
?逃げ出したくなるほど私を拒むか?  


「澪、嫌なら言って」         
「…いや、ぢゃない」         

首に腕を回して、消え入りそうな声で呟い
た澪はまた泣いていた。なんで泣くの?泣
かないでくれ、と私が言えば嬉しいのだと
笑って泣くのだ。理性の半分を始めのほう
でなくしていた私にとってこれは爆弾投下
。一度は押さえたフツフツと煮え立つ感情
がまた出てきたけれど、先程と違うのはこ
れがプラス面ということ。身体に力を入れ
て、そのまま反転させた。ギシッとベッド
が軋む音と、目の前には潤んだ瞳の澪。あ
ー、さようなら親友。         






隣人を警戒しなさい






乱暴に唇を奪って、舌を滑りこませて、き
つく抱きしめて「消毒は必要だろ?」と、
不適に笑ってみせた。         














20101023







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