けぃぉん

□かくれんぼ
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沈みかけたオレンジが私を段々と暗闇
に染めていく。何かに怯えた私は膝を
抱えて座り込んで僅かに震えた。どっ
からともなく吹く風が校舎の木材のよ
うな懐かしい匂いを運んで、以前は大
好きだったこの鼻孔を擽る風も今は不
十分にしか思わないのは時の流れかも
しれない。(やめて、)私はまだこの
場所に居たい。逃げ切れるとは思わな
い。この流れを止める手段を私、まし
てはこの世界中の全ての人間が与えら
れていないものだ。        


きつく、きつく腕に力を入れた。カサ
カサになってひび割れた膝小僧に潤う
それが流れ始めたのを確認してそのま
ま顔を押し付けた。嗚咽を飲み込み、
けれど堪えれなくなった声が漏れて、
フツフツと熱いものが込み上げてきた
。先を見すぎた私がいざ後ろを振り向
いたなら帰ってこれそうにない。感傷
なんてらしくないのに。      


「こんなところに居た」      


聞き覚えのある声と認識したのは驚い
た反動で顔を上げた後だった。膝に擦
り付けていた目がまだ残像を残すオレ
ンジにやれてチカチカする、それでも
と目の前にいる人物を見上げて離さな
いのはきっと望んでいたことがあった
からだ。             

「探したんだぞ」         

小さい掌がぽんぽんと私の頭に置かれ
て、撫でた。この温もりに浸ることが
出来るようになったのは何時からだろ
うか。澪ちゃんばかりのりっちゃんを
恨めしそうに見ることが多くなってし
まった私だってこの感情の意味を隠し
きれなかった。泣く私を「しょうがな
い奴だ」と眉を歪めながら笑ってくれ
る。私がどんな場所に居ようが必ず最
後に見付けてくれる。こうもあっさり
と欲しいことを行動に移したりっちゃ
んが私のヒーローだった。それに甘え
てしまうのが苦しい。この狭い世界に
終わりが来るとしたならばきっとそれ
はこの関係が終わる時だから。(嫌だ
、嫌だ嫌だ。終われない、終わりたく
ない)まだ一緒の道を進んでいたい。
泣き止んだ私の涙腺がまた緩み始めた
。穏やかに笑うりっちゃんの胸に飛び
込んでまた熱くなる目元を押し付けた
。                


「りっ…ちゃ、」         
「馬鹿だな、唯。泣きたい時は来いっ
て言っただろ」          

滲む夕日が消えた。諦めたように言う
りっちゃんはわかっている。私が面倒
事をかける理由も、逃げてしまう理由
も。               


「私はかわらない。絶対に変わらない
から。唯も変わらないでよ。そしたら
どんなに時間が立ってもさ、中身は全
部同じじゃん」          


それは決して諦めなんかじゃない。未
来に繋がる理想像を淡々と述べるのと
も違う。欲してるのだ。願いに通じる
、淡い本音だった。幸せな日は続くか
?それを疑わなかった私は大人になる
に連れて訝りも増していった。いつで
もキラキラしていたい。いつでも純粋
に感じたままを生きていたい。それが
駄目だという大人なんかに私はなりた
くない、それも我が儘なんだろうけど
そんな私を信じて止まない人間がりっ
ちゃんだった。          




「りっちゃん、り…ちゃ、…」   


根本的なものは変わらない。だから逃
げるのは駄目だよ、と道筋に直してく
れる。何度も、掠れながらも名前を呼
べば優しく撫でてくれるのもりっちゃ
んだった。            







かくれんぼ







20101031








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