けぃぉん

□穏やかな日
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穏やかな日






あまりよろしくない錆び付いた車輪の
音が鼓膜を震わせた。今日はどうしよ
うか、家でゴロゴロするのもいいな。
早く帰って、と先の事を頭に浮かべる
のは好きだ。あれやこれやと考えるう
ちに段々と楽しくなってくる辺り私は
一人でも暇にはならないんだと思う。

私は片手に持つ袋を覗く、そこには人
参、ブロッコリー、ジャガ芋、ああ今
日はシチューかな。買い物を頼んだの
は憂だったのに、快く引き受けた私を
見てあまり浮かない表情をしていたの
も我が妹であって、なんとなく複雑な
気分だ。             

また背後で聞こえる錆び付いた音。良
くある日常での道路での出来事だから
全くと言っていいほど気に止めていな
かったけれど、その直後、自転車特有
のリンリンというベルがなって後ろを
振り向いた。           

「あれ、りっちゃん」       
「やっと気付いた」        

私服姿(ジャージだけど)のりっちゃ
んは片手を上げて早く気付けよな、と
白い歯を見せて笑った。スピードを上
げ、私の隣に並ぶと軽快なジャンプで
自転車から降りて私の片手に握られて
いた今夜のおかずが入ったビニール袋
をカゴに入れた。         

「お使いか、偉いじゃん」     
「エヘヘヘ」           
「おお、今日はカレー?シチュー?」
「シチューだよー」        

りっちゃんは、そっかそっか。と穏や
かに笑い頷いた。いいでしょ?と笑う
私にりっちゃんは羨ましいと相槌を打
ってくれた、一緒に歩く道、しかしこ
こで一つ浮上した問題点があった。私
はそれをポロッと告げてしまうほど単
純な性格を持っていて、「そういえば
、りっちゃんは何してるの?」と問い
掛ければ困ったように眉を垂れ下げて
しまった。            
「いや、喧嘩してさ…」      
歯切れが悪い、りっちゃんは不自然に
も笑うのだ。だけど申し訳なさそうに
するりっちゃんから後悔だけが感じら
れた。誰と、なんて聞くことはない。
今この場いるのがそういう理由なんだ
ろう。              
「うち、来る?」         
カラカラ回る車輪が一時停止する。目
を一瞬だけ見開いたりっちゃんはうれ
しそうに目を細めた。       

「うーうん、悪いよ。でもありがとな
唯」               

やんやりと当たり障りのない断りを入
れてもここで逃すなんて選択肢にはな
い。また無邪気に食いつき、離れまい
と単純に理由を切り出した。    

「わかった、今から遊ぼ、うちで」 

気遣いじゃないよ、と私は付け加えて
りっちゃんの了承なしに自転車の荷台
へと跨がった。          

「おい」             
「ねー、暇でしょ?」       
「まぁ、暇だけど…」       
「私も暇だから、ね?遊ぼー」   

早く、早く。りっちゃんが乗ってこい
だほうが早いよ。足をぶらつかせてジ
タバタと降る。それを繰り返している
とりっちゃんは溜息をはいてうなだれ
た。やり過ぎたかと思いりっちゃんが
動くのを待てば「ったく、しかたない
なぁ」と振り返り笑う。      

「やったー」           
「何して遊ぶんだよ」       
「えー、死体ごっこ」       
「それ、寝てるだけだろ」     

アハハは、と笑う帰り道。ほらさっき
までの苦笑いもどっかいったでしょ。
やっぱりりっちゃんは笑っていたほう
が似合うよ。気遣いなんてそんなこと
私が出来るはずないんだよ、簡単で単
純で私は私の我が儘で生きるから。 

「ほら、掴まれ」         
「はーい」            

景色を追い越して、明日を運んでいく
。そんな日常でいいのだ。     





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