けぃぉん

□いきなりの爆弾発言
1ページ/1ページ


田井中家のインターフォンを押したのは
珍しくショルダーバックを肩から下げた
唯だった。顔を上げ私の顔を見るなりニ
コニコと目尻をだらし無く下げる唯を見
て今日何かあったかなぁ、と脳内を探索
するがけいおんでの行動はないはずだ。
おい、どうした。何故こんなにご機嫌が
良いんだ?何もかもわからない私はどう
したの?と問い掛ければ唯は「りっちゃ
ん私、わかったんだ」と微笑ましい顔を
向けた。              

今日は休日か、そういえば家には誰もい
ないことを思い出す。ここで話すのはな
んだと思い家の中へと促した。ピンクの
パンプスを玄関先に綺麗に並べ可愛らし
い声で「お邪魔します」と一言、それに
返答を返すのが私だけで唯は首を傾げた
。                 

「あれ、誰もいないの?」      
「うん。みんな出払ってる。良かったな
ぁ、煩くしても大丈夫だぞ」     
「わーい」             


バタバタと階段を駆け上がる唯を見て苦
笑を漏らしそのままリビングへ。冷蔵庫
を開けば麦茶とリンゴジュースが目に入
った。唯はなんだかんだ麦茶系が好きだ
からな、と思い立ち迷う事なく二つのコ
ップに麦茶を注いだ。そういえば昨日聡
がロールケーキを買ってきたことを思い
だし、冷蔵庫を再度見れば白い箱が入っ
ていた。これだとばかりに拝借。半分な
らいいだろう、今度なんか買っていけば
と安易な考えでそのフワフワなケーキに
鋭いナイフで取り分けた。      

「ほらよ」             
「わー、ケーキだ。ケーキ」     
「こら待て!ちゃんと手を洗いなさい」
「りっちゃんお母さんみたーい」   
「うるへい」            

駆け出す唯は階段をバタバタと駆け降り
る。忙しい奴だと呆れて笑う、それがま
た唯らしくてとことん甘やかしてしまう
。唯がいなくなった部屋はまた静寂に包
まれた。開けっ放しになった雑誌に目が
行くが何も頭に入らない。考える事は一
つ。玄関での唯の一言。何がわかったん
だ?またくだらないことだろうか、いや
待て。またも天性な閃きを発掘したのか
。あいつは何処か秘められたモノを持っ
ているから侮れない。考えている間にま
た慌ただしく階段を駆け登る音を聞き私
は開かれた雑誌を閉じた。      

「りっちゃん隊員洗ってきました」  
「よし!唯隊員食べてよし」     
「わーい、ケーキ。」        

ドアを開けるなり敬礼の体制。そこで私
が許可をすれば何処に隠していたのか俊
敏な動作で机の傍へ、そしてフォークで
ケーキを刺し口の中に放り込んでいた。
その時間僅か二秒足らず。あー、なんて
良い動きだ。今の動きを継続できるなら
ば運動部に欲しい逸材だろうに。「うま
い、うまい」とケーキと麦茶を交互に口
に運んでいく唯にならい、私もケーキを
フォークに刺し口に放り込んだ。   

「うまい」             
「りっちゃんありがと」       
「おう気にすんな」         

食べ終わった後お皿を二人で台所に運び
また部屋に戻るや否な唯はギターの本を
何故か手に取り読み初めてしまった。私
はというとそれならばとドラムのスティ
ックを持ち大音量で聞く音楽に乗り叩き
始める。と、このまま大事な事に気付か
ず時間を浪費するところだった。時間を
見れば唯が来て二時間を経過している。
あーぁ、と意味もなく焦る私は大音量の
音楽を止め唯の名前を呼んだ。すれば本
から目線をそらしどうしたのとでも言う
ようにキョトンとした表情で私を見てい
た。                

「唯、玄関でのあれなに?」     
「え?」              
「わかったって言ってたじゃん」   

気になってしまった私は好奇心の塊にな
る。しかたない、それが人間の性という
ものだ。何かを思い出した唯は「あーっ
!!」っと大きな声を出し私との間をつ
める。腕を掴まれ、勢いよく詰められた
間に驚いた私は咄嗟に後ろへと遠ざかる
。                 

「ゆ、ゆい?」           
「りっちゃん!!」          
「は、はい、?」          
「わかったの」           
「だから何が!?」         
「私りっちゃんが好きっ」      

じっくり間が開くこと暫く。私の目は点
になっていたかもしれない。それほど呆
気に取られたということで、そんなこと
今更言わなくてもわかってるよ。と次い
で出た言葉に唯は否定的な言葉を残した
。                 

「違うって何が?」         
「全く違うの、わかる?」      
「え、へ?わかるって……」     
「りっちゃんが…好き」       

それが決定的だった。その言葉と共に唯
の頬が赤らみ、瞳にはった綺麗な潤いと
、ギュッと何かを堪えたように閉じた唇
。そんな仕草に一つの事実のようなもの
を突き付けられた気分だった。そうして
理解した時全身から吹き出しそうな熱気
と恥ずかしさに朦朧とする。     

「りっちゃん、顔真っ赤」      

暑い、暑い、熱い。身体も顔も、握られ
た腕も。この微妙な間でもわかる唯の吐
息も。あー、なんなんだ。もうわけがわ
からなくなった私はというと赤い顔を見
られるのを避けるためにその場で俯く他
なかった。             




いきなりの爆弾発言






20101211








[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ