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□過去、現在の比較
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「良い天気でさぁ」        
「寝ぼけた面で何言ってんだ」   
「テメェに言われたかねぇ、目が開い
てませんぜ?ひし形」       
「土方だ」            


隣で繰り広げされている光景ももう恒
例のように毎日飽きずに行われている
。僕はチラッと窓の方へと視線を移し
た。窓は開け放たれて、そこから入る
風がペラペラと何人かの紙を仰ぐ。確
かに良い天気だ。青い空を見て、楽し
そうな言い合いがあって(本人達に言
えばきっと怒るに違いないけど)なん
か段々とうずうずしてくるのだ。  


「あーぁ、なんでぃ。普通こんな日は
お昼に限るでしょーよ」      
「お前の頭の中はそればっかだな」 
「あんたはマヨばっかだな」    
「よし、表出ろ。こんな日は外で運動
しないとな」           

最早、取っ組み合いにまで発展しそう
な二人を僕はマジマジと見つめた。授
業中なんてこのクラスでは通じない。
規則なんて「え?なにそれ。おいしい
の?」的な感覚だ。無論、教師がそう
いった思考なのだからこうなるのも頂
ける。              

「この紙っぺらいらなくないですか?
」                
「それは同感だ」         


学力テストと記された紙を親指と人差
し指で摘むように持ったと思えばそれ
を机に無造作に置いた。所謂、放棄だ
。土方君はさっきから頭を抱えて悩ん
でいるけれど配られた時のまま白紙で
あった。自分の文字で埋めつくされた
プリントを見る。(そうか、だからか
)今だに二人はギャーギャーと騒音を
作り出しているけれどそれをうっとお
しいなんて思ったことはないのだ。 


「そうだな、こんな日は外に居たいな
」                


一人言だった言葉は二人に聞こえてい
たようだ。直ぐに二人は僕の机に詰め
寄り、怪訝そうで驚愕したようなそん
な表情を向ける。         

「今、九ちゃんなんて?」     
「外に行きたい」         
「おい、九なんか変なもん食ったか?
」                

信じられないと言うような顔だった。
僕は何か変な事を言ったのだろうか?
そう素直に問えば二人は物凄い勢いで
顔を横に振った。         

「いやいやいや、九ちゃん行きやしょ
う」               
「もうどうせテスト終わってんだろ?
外行くぞ」            
「ついてくるでんすかィ?」    
「それは俺の台詞だ」       

テストとは終わってるけど二人は終わ
ってないではないか。二人の白紙の答
案用紙を凝視していると二人はこんな
の俺には必要ないと言う。銀八先生を
見ればスヤスヤ夢の中で、時計を見れ
ば終わる鐘が鳴るまで後四十分はある
。出るなら今のうちだ。      

「九、」、「九ちゃん」      

いつの間にか二人は立ち上がっていて
、指で合図を送る。二人は身を屈めて
足音を立てないように静かに教室の外
へ。あんなに騒ぎ立てていたのに今更
あんなことしているのがおかしくてし
かたない。僕は笑った。そして二人の
ように身を屈めて後を着いていく。 


(わかった、わかったんだ)    

このうずうずする理由も。みんながど
うしようもなく楽しそうだと思ってし
まうのも。            


外に出て草っぱらに腰を降ろした。外
では生徒が体育の授業をしている。う
ちのクラスは毎回乱闘騒ぎになる、今
目の前にあるのは普通の平和的な体育
の授業で、僕が望んでいた授業だった
のに。              


(物足りないないだなんて)    


笑ってしまう。本当に。      
沖田君は坂から土方君を落として、土
方君は雄叫びと共にコロコロ転がって
いく。到着した時に土方君が沖田君に
罵声と暴力を奮って、それから、それ
から。              

「九ちゃん、早くきてくだせぇ」  
「九、こっち来い」        


手を振り促す。僕は一心に風を受けそ
の声を受け瞬きをした。(欲しいモノ
がある)羨ましいだなんて思わなくて
いい。僕は今その中にいる。入ったば
かりの僕、今までの僕ははもういない
。                


「今、行く」           


満面の笑みを浮かべて一気に坂を走り
抜けた。             






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20101121










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