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□少ない時間での二人言
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寒いなぁ、道路で一人呟いた。三月だというのに余計寒波が増している気がする、こうして制服で外を歩くなど自殺行為だ。唯一の首元にある暖かな物、シンプルで黒いマフラーを鼻まで上げて埋めた。ズボンのポケットに手を突っ込み一般の大きさよりも少し小さい黒い携帯を出して液晶画面を見れば時間は既にPM3:42。学生で言うなれば放課後の時間帯だ。今日は部活がないため普段ならもう家に着いている頃だというのに。時間を表す数字をボーッと見ていると調度良く受信画面に切り替わった。受信ボックスを開けば"総悟"と表示されていた。今はこの名を見ると苛立ちと一緒に悔しさも滲み出てくる。真ん中にあるボタンを押して開いてみると……"とっしー。さっきミルクティーって言ったんですけど、暖かいココアでお願いしやす。あとなんか甘い物買ってこい"………。ああ。うぜ…物凄くうぜー。返信せずに携帯を折り畳みもとにあったポケットに突っ込んだ。



二十分前に総悟の「何か飲みたいなぁ」という言葉から始まった誰がこの寒い中可哀相な思いをしてコンビニに行くかじゃんけんをした。ちなみにネーミングセンスは俺だ。犠牲者の思いを綴り、相手にも分かってもらえるいいネーミングだ。だがその犠牲者にまさか自分がなるとは思っていなかったのだが。








***










やっとの思いで学校に到着し向かった先は例の帰宅部の部室だった。部屋に入れば暖かな空気が冷たくなった身体に染みた。九兵衛の「おかえり」という言葉に「ああ」と短く返事をして片手に持っているビニール袋を机の上に置いた。いきなり暖かな場所に来たために鼻水が出てくるのを必死に止めようとしていると九兵衛が「はい」とティッシュを取ってくれた。一言「すまん」と返して鼻をかんでいればいるはずのもう一人の人物がいないことに気付いた。


「総悟はどうした」
「銀八先生に呼ばれた」
「またなんかしたのか?」

九兵衛は困ったように眉を下げ苦笑を浮かべた。とりあえず寒いので炬燵の中に身を入れながら九兵衛の言葉を待っていると「それが…」と言葉を濁した。聞き取りにくくて九兵衛の隣に移動してビニール袋から自分の暖かいコーヒーを出した。

「沖田君が校長先生の触角引っこ抜いたんだ」
「ああー…俺も前やって呼び出された」
「銀八先生が呼び出しされて沖田君も呼び出されたらしい」
「まぁーあれだ、校長がわりんだよ。あんな珍しいもん垂れ下げて。あれじゃ"どうぞ取って下さい"って言ってるもんだろ」


あれ引っこ抜いたら痛いのだろうか?九兵衛が本気な顔して言うもんだから吹き出した。

「なぜ笑う!!!?」
「いや、なんでもねー。いてぇんじゃねーの。出血してたぜ」

そのまま九兵衛にココアを差し出すと小さく、すまん、と謝られた。―――あぁ、あったけぇ。もう出たくない。帰りたくない。なんたて外寒いから。


「んで、かれこれどんぐらいだ?」
「土方君が出てってすぐだから40分ぐらいだ」
「おお、そりゃぁ大層なお説教で」

俺と九兵衛が二人っきり。しかも一つ屋根の下。屋根?まぁ、いい。焦る総吾の顔が頭に浮かんで、ざまぁみろ、と心の中で呟いた。悪友への優越感でいっぱいになった。とりあえず、総吾が帰るまでこの団欒を大切にすることにした。







     2010、0510:少ない時間の二人言








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