あざー2

□2
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気付いた時には既に朝を知らせる陽の光
りが零れていた。月の光りとはまた違う
その鋭さを伴ったまばゆい光りに真名は
目を細め、事の発端人物を見れば乱れた
息もなく規則正しい寝息を立てて寝てい
る。青白かったその顔も何時もとなんら
変わりなく穏やかな表情であった。数時
間前と変わりない位置で座ったまま夕凪
を膝と膝に挟む刹那に近付いても起きる
気配はなく、一時間前に飲んだ痛み止め
の効力が余程効いているのだろう。  

(それとも、安心しているのか)    

つくづく変わったと思う。それもこれも
お子ちゃま先生とあのお転婆娘のお陰か
。                 

通り過ぎ様に時計を見れば五時を回って
おり、後少しで鳴るだろう鬱陶しい音が
出ないようにオフのボタンを押す。これ
で当人が起きるという心配はなくなった
。                 


結局一段落したその後も眠りに付く事な
く薄暗い部屋の中で黙々と愛用する銃や
らライフルやらの手入れに没頭した。眠
りが浅い真名にとって二度寝ということ
が出来ないため暇潰しを前提に整備を行
っているだけだ。そのはずだ。―― が
、何やら引っ掛かる。変に視線を向けて
しまっていた。それは明らかに自分が相
手を気にしているということだった。 


(心配なのか、)           

刹那と真名の交流は深い方だ。そして一
応は中等部入学した時からクラスメート
である。心配とならばするのが当たり前
。例えあまり交流がなくともクラスメー
トならば心配はするだろう。     

が、しかし。それだけでない事に真名は
薄々気付いていた。         

まさか。そんなはずはない。他人に感傷
するなどと、そんな感情は疾うににあの
場所に捨ててきたではないか。    

鈍痛が頭に響く。ジクジクとしたそれに
真名は額を手で抑えながらも刹那の傍ら
に腰を下ろした。          
(まさか…)             
視界の中心は彼女の顔、やり場のない感
情は何に例えようか。そうだこれは焦り
だ。自我が揺さ振られる程の。―― ま
さか。そうだ"まさか"なんて事があって
はならない。            


真名は一切するようにふぅーっと息を吐
き静かな動作で膝の裏と脇の下に腕を差
し入れ持ち上げ、あまりの軽さに驚き眉
を潜めた。             



脳に響く電子信号は遮断し、有り得ない
と思わせては足を運ぶ。ゆっくり、と。
それは緩慢な動作で。二段ベッド付近に
考えること二秒程、上段に刹那を運ぶの
は流石に起こし兼ねないのとそれに加え
軽かろうと人一人上に運ぶのは少々難し
い。                


寝かした場所は自分のベッドだった。一
瞥し起こしてないことを確認して寝かし
、これまた優しく布団をかけている自分
ただ溜息が零れた。         



***




膨れ上がる雲が頭上を流れていく。甘さ
が残る風に夏らしさを感じた。真名は疎
らに人が歩む道を颯爽と歩いていた。 


寮から中等部校舎は少しばかり距離があ
る。そういえば、と思い出したのは予鈴
が鳴る十分前ぐらいに到着する電車から
降りたあの殺到するようなラッシュだっ
た。一度仕事の遅れで予鈴が鳴るギリギ
リになってしまい後悔したのは言うまで
もない。あれからはこうして少しばかり
早く登校するようにと心がけていたのだ
。                 

(何やら今日は騒がしいな…)     

次々に自分を追い越す人は皆何故か駆け
て通り越して行く。しかも何時もより人
が多い。              

(今日は何かあったか?行事などないは
ずだが)              

真名は暫し思案を巡らしながら歩いてい
ると、視界の端に燃えるような赤い髪が
入った。              

「あ、」              
「ん?」              

隣を意気揚々と通り越したその人物は真
名の咄嗟に零れた声に反応し急ブレーキ
をかけるがスピードがスピードなだけに
少々距離が空いて止まった。     

バッと振り返った少女――朝倉和美は首
から愛用のカメラを下げており、何やら
キョトンとした間抜け顔した後訝し気に
真名を見た。            

「おはよう」            
「あ、おはよう…ッぢゃなくて、」  

取り合えずと挨拶の言葉を述べてはみた
が                 
「なんで龍宮さん此処にいるのよッ!?
」                 

目を開け放ち驚愕したかのような剣幕で
いきなり詰め寄られた挙げ句、何故?と
言われると流石に困る。       

「クラスメートが登校して何が悪い」 
「ぢゃなくて…」          

先程から何を言っているのかわからない
朝倉を真名は怪訝そうに見遣る。朝倉は
比較的、頭も回るし行動力もある。ずる
賢いが頭脳で言えば結構な力があると言
えよう。そんな朝倉に限って…、   

「ついに頭がやられたか」      
「違うわッ!!」           

キレがあるツッコミは朝でも健在か。よ
くこのテンションで毎日を過ごせるなと
舌を巻いても結局の所、我クラスはそん
な輩の排出率がかなり良い。     

そういえば、眼前にいるこの人物こそ面
倒事、皆を巻き込む事件が好物だと真名
は思い出した、矢先朝倉は言葉を繋ぐ。

「違うんだって。龍宮さんさっき寮に居
たじゃない…、どうやって此処来たのよ
?」                 
「―― は…?」          

朝倉から述べられた事は有り得ない事だ
った。――「寮に居た?」何を言ってい
る。私が寮を出たのは二十分も前のこと
、見間違いではないだろうかといったふ
うに眉を寄せていると朝倉はそれが分か
ったかのように「見間違いじゃないよ。
ちゃんと見たんだから」と告げた。  

真名ただ意味がわからずに黙り込む。 


「私さっき寮出てきて、その時はまだ寮
に龍宮さん居て……、私は走って来たか
ら…――んぁぁあ、何?もう意味わから
ない」               

(それはこっちの台詞だ…)      

頭を抱えて叫ぶ朝倉の脳がパニックに陥
っているのを見て冷静に思案する。  

意味がわからない、朝倉が寮を出た時に
"龍宮真名"が居たとなると二十分前に寮
を出た"龍宮真名"こと今の私と二人存在
することになる。何かの冗談かと疑えど
朝倉が嘘を付いているようには見えない
。                 

「私は二十分も前に寮を出たんだが…」
「――…え?」           

つかの間の沈黙。互いに見つめ合って一
時静止。              

「まさかドッペルゲンガー!?」    
「なわけないだろ」         

冷静に言う真名を無視するように朝倉は
「あー、幽霊だぁ」などと肩を下げた。
それもつかの間、フフフと無気味な笑い
声と共に怪しく上がる口角が目に入る。
ただならぬオーラが朝倉を包む。それは
まるでどす黒い邪悪なオーラだった。 

嫌な予感がした。          

「フハハハハ、スクープだ。私は幽霊を
見た。龍宮真名のドッペルゲンガーだぁ
ぁああ。……いや、待てよ。さよも幽霊
だ…、もしやさよの影響で私にも霊感が
……」               
「待て待て待て」          
「そうだ、そうに違いない。ならば今直
ぐに舞い戻りこの伝家の宝刀で証拠をと
っ、いや、待て。今日はこれからネギ先
生の―― いでッ!!」        


一人特急列車の如く止まることない朝倉
の頭上へと落とした手刀はごつんっと鈍
い音がした。待てと言って無視する奴が
悪い。それにカメラは伝家でも宝刀でも
ない。               

「ちょ、痛いじゃん」        
「自業自得だ」           

取り合えず止まった。しかし朝倉の言葉
に気になる点があった真名は興味ありげ
に尋ねた。             

「今日なんかあったか?」      

ネギ先生の、と聞こえたが。と言付けて
聞くと朝倉の顔はみるみる呆れ顔に変化
していく。             

「龍宮さん、覚えてないの?先週のホー
ムルームの時のいいんちょうの話し…」

朝倉はげんなりしたかのように声を低く
した。そうして遡ること一週間。真名の
脳内では過去を振り返ろうと必死で思い
出そうとしていた。         

(先週、先週……何時だ。何かあっただ
ろうか)              

黒目を焦点からずらし眉を潜めている真
名の姿に朝倉は「まじか…」と余計に肩
を落とした。            

「今日はネギ先生が新任して一周年記念
でしょ、いいんちょうが必死に頑張って
たじゃん」             
「ああー―…、」          

いいんちょうが妙に暴れていたのを思い
出した。あれは頑張っていたのかと今思
い出したかのように、(事実そうなのだ
が)無に帰す言い方は興味などないよう
だ。                
「ああ…って、」          
「すまない」            

話しを効いていたつもりがうっかり流し
ていたようだ。           

「だから今日の夜はパーティー。わかっ
た?龍宮さんも来るんだよ?来ないとか
なしだから」            
「あ、ああ…。わかった。わかったから
…」                

近付く物凄い剣幕に顔を背けながら承諾
すると満足したかのように微笑んだ。 

「ならいいわ」           

先程の幽霊がなんだとか、ドッペルゲン
ガーがなんだとか言う話しは忘れたかの
ように学校へと足が向く。若干の引っ掛
かりがあるにせよ真名は朝倉の気のせい
だと解釈した。           







――――――
もう一人はだーれ?











20100103










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