あざー2

□3
1ページ/1ページ




本令のチャイム音が鳴る直前まで次々に
3ーAの教室へと入り込んでくるクラス
メートを真名は自席に座りながら見てい
た。                

そこで目についた三人の人物。    

中学生には程遠い少女、否…少女とも言
い難い身長と胸を持つ糸目の長瀬楓と、
その長瀬楓と同室である鳴滝風香と鳴滝
史伽の姉妹であった。        

「いやー、危なかったでござるな」  
「本当、本当。お姉ちゃんが転んだ時は
どうしようかと思ったよ」      
「うるさいなぁ、もう」       

からかう史伽と頬を膨れさせた風香は若
干息を整えながら談笑し、楓は二人と違
い息を切らすことなく笑っていた。  


落ち着いたと思いきや双子は子供のよう
にはしゃぎながら挨拶を交わしていく。
それに付いて行くように楓も後を追い同
じくお決まりの言葉を口にした。   

そして一人の人物を見つけ呟く。それは
戦友兼クラスメートでもある真名へのも
のだった。             


「お、真名おはようでござる。間に合っ
たでござるか、良かった良かった。」 

上段席に座っていたために楓は見上げ、
階段を登り始めた。真名は一瞬にして今
朝の朝倉の会話を思い出し「楓、お前も
か」と喉まで出かけた言葉を飲み込んだ
。                 

楓は何気ない言葉を言っただけなのだろ
うが、真名にとっては不信感を煽るもの
でしかない。            

(なんなんだ、今日は…)       

また見間違いか、と一切しようとしてそ
れを中断した。―― まてよ、朝倉と楓
が二人して見間違いなど有り得るのだろ
うか。例えそれがあったとしてもその確
率は極めて低い。          


真名は自然と唇を噛む。       


「どうしたでござるか?顔が引き攣って
ござるよ」             

珍しいでござるな、などと呑気に笑う楓
は今は自分のすぐ横で立っている。が、
一向に反応を表さず固まる真名をどうし
たとばかりに覗き込めば何時もの冷静な
顔付きはそこにはなくみるみると険しく
なっていく。            

その顔付きに楓は笑みを無くした。  

「楓、"私"を最後に見たのは何時だ?」
「何を言って…ッ」          
「何時だ?」            

遮るように繋いだ言葉に刺は増す。一瞬
楓は息が詰まる程の圧迫に薄く片目を開
き告げた。             

「せっしゃが寮出る直後でござる」  



―― ああ、嫌な予感がした。     


気付けばその場から立ち上がり隣に立ち
すくんでいる楓を突き飛ばすほどの勢い
で階段を降りていた。        

「――…、真名ッッ」         

楓の声を後ろに聞きながら鞄も何も持た
ずに教室から飛び出そうと一歩廊下に出
た時、視界に入った自分より小柄な少年
は驚愕したかのように跳びはねた。  

「わぁっ、た、龍宮さんっ――」   

反射的だろう、それを冷静にかわした後
、すぐ隣でバザバサと紙類が落ちる音と
その少年の慌てる声、楓の必死の呼び声
を聞きながら止まない足はただ元来た道
を引き返すのだった。        



***



ネギは真名の後ろ姿をただ呆然と見る他
なかった。綺麗に重ねて抱いていた書類
は廊下と教室の狭間で無惨にも散り、今
しがたぶつかる寸前までいった人物像は
見る影もない。           

突然の事態に混乱するネギは驚いた時の
心臓の鼓動を落ち着かせようと深呼吸し
た。                

「どうしたんだろう…」       

もう授業始まりますよ、とそんな悠長な
事を思うがあのすれ違い様の真名の顔を
思い出し深刻な顔付きに変わる。   

あんな切羽詰まった真名を見たことがな
いネギは自然と不安を覚えた。    

(もしかしたら何かあったんじゃ…) 

今にも追い掛けたい衝動がネギを襲う。
が、今は先生という立場。此処で真名を
追い掛けクラスメート全員をほって置く
ことなど到底出来ない。       

悶々と葛藤繰り返すネギは端から見たら
不自然だろう。ウロウロと辺りを行った
り来たりとうろついている      

助け舟を出したのは見兼ねた楓だった。
ネギの立場上を見ての行為だったかもし
れない。しかし楓とてあの尋常でない真
名のそぶりは気になってしまう。比較的
仲が良い楓さえもあんな姿は緊急時のそ
れでしか見たことがないのだ。    


ネギはぐっと肩を掴まれたと思えばその
温もりはもうなく走り出した楓は後を振
り返りながら叫ぶ。         

「ネギ坊主、ここはせっしゃに任すでご
ざるーっ」             
「長瀬さん――…ッッ」        
「ごめん、ネギ先生。私も」     
「ちょ、朝倉ッッ」          

ツインテールに付いた鈴が鳴る。座席を
立ち上がり名を呼んだのは神楽坂明日菜
だった。              

ついでにいいんちょうこと雪広あやかも
何やら止めようと叫ぶがその静止にも朝
倉は止まる事なく楓の後を追った。  

「もー、なんなのよ」        

明日菜は意味もわからずやり場のない身
体を沈めるしかない。        

(あいつは煩いし…)         

自席へ座りヒステリックを起こす雪広あ
やかと依然として棒立ちのネギを見た。
何か言いたそうだが何も言うことはなく
、暫くすると散らかった書類をかき集め
始めた。              

「ったく、なんなんですのっ。ネギ先生
私もお手伝いしますわ」       
「あ、ありがとうございます」    
「私もやるアル」          

立ち上がったあやかと古菲、他にも前髪
で目元を隠した宮崎のどかが素早く書類
を集めていく。           

明日菜はそれを眼の端に入れながら溜息
を付いた。ふと隣を見れば心配げに俯く
近樹木乃香が明日菜の視線に気付きたど
たどしく顔を上げた。        

木乃香の瞳は不安で揺らぐ。ギュッと唇
に力が入り、それが解かれると同時に情
けない声が明日菜の不信感を煽った。 

「せっちゃん、…今日きいへんって龍宮
さん言っとったなぁ」        

明日菜の目が見開いた。木乃香の言わん
としている推論、否核心のようにも聞こ
えたその言葉の意味がわかってしまった
からだ。              

繕うように笑う木乃香は渇いた声で言っ
た。                

「ウチ、考えすぎやねぇ」      

嫌な予感とはあってほしくない時に当た
ってしまう。明日菜は根拠もなく平気だ
よ、と口にしていたが何故か自分に言い
聞かせているようでならない。    

明日菜は携帯を取り出した。念には念を
、ただでさえ最近は何かと事件が多いの
だから損はないだろう。       


明日菜の持つ携帯のディスプレイには長
瀬楓のアドレスが表示されていた。  










――――――
なんか長編に 
なりそうな予感








20110105




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ