ぶりーち

□ブラックアウト3
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PM7:10。静寂が包む校内、生徒は
もちろん先生ももう早々と此処を
去っているに違いない。この生徒
会のみを除けば。       

「で、なんで二人共そんな埃だら
けなん?」          

ドアを開けば、黒いソファーを全
て陣取る市丸が居た。足を投げ出
し黒いソファーの腕に肘を乗っけ
て、手は頬に添えている市丸は淡
々とく。その姿に何故か怒りが込
み上げてきた俺はその松本、市丸
お気に入りの黒いソファーを市丸
ごとひっくり返した。     

「のわっ」          

ざまあみろ、俺は心の中で言って
やった。結局、邪魔やアクシデン
トやら無駄な時間を費やした爆弾
処理は成功。報酬だって受けとっ
た。腹から血を流していても死ん
でないんだそりゃぁ当然だろうよ
。それでも報酬が少々減ったとか
、倉庫内の埃(松本の能力での破
壊)で全身が白いとか、否―― 
多少はある。俺のこのスーツだっ
てお気に入りだった。報酬を少々
減額したこともぶちギレた。しか
しそんなことで(たいしたことあ
るが)苛立っているわけではなか
った…。           

「ちょと、先輩。止めてくれませ
ん?ソファーに非はありません」

そう、問題は松本にある。棘の篭
る冷たい口調はいつもの松本から
は信じられないほどに怒気を含ん
でいた。呆れもそこそこに実に怖
い、あまり松本はキレない分に余
計に。            

「ちょ、乱菊。それ僕がどーなっ
てもいいって聞こえるんやけど」
「そう言ってんのよ」     
「酷ッ、」          
「あんたが起きる前にソファー起
こしてくれない、汚れるから」 

市丸が起きなければソファーは起
こせないだろうよ、もし起こすこ
とに成功したなら神業だ。そんな
事は決して声には出さない。なぜ
なら俺に被害が及ぶからだ。  

市丸は一瞬顔を引き攣らせた後性
急に黒いソファーをもと通りに戻
した。すれば罵声、そして次に「
埃、ついた」と雑巾を市丸に放り
投げた。笑えない。      

言っとくが          
―― 埃塗れは俺達だ     
今すぐに帰って風呂に入りたいと
いうのに報告書を提出しなければ
ならない事が腹立たしい。   

松本は盛大な溜息と共に荒々しく
ガスコンロ(台所のような場所)が
ある部屋へと消えていった。  

「なんなの?……あれ。僕なんも
しとらんやないの」      

市丸は松本の後ろ姿を見送りなが
らも傍に寄り耳打ちでそう愚痴を
こぼした。こんな時でもに黒いソ
ファーを拭いている辺り、何気に
律儀なのか、はたまた愛用のソフ
ァーだからなのか、否――松本が
怖かっただけなのかもしれない。
多分そうだろうが。      

「お前が大層うざかっただけだ」
「座ってただけなのに?」   
「存在」           


――わぁぁ、と呻き両手で顔を隠
すほどのオーバリアクションを見
て見ぬふりをして立ちすくむ。落
ちた雑巾を拾い取り合えず泣きま
ねをしながらも綺麗に拭いていく
市丸はほっといて辺りを見渡した
。確かに帰ってきて早々煩いあの
ゲタ帽子がこんな静にこの生徒会
室にいるはずがない。この場には
目的人物がいないということだっ
た。俺は独り言のように    
「浦原は?」         
と言葉を発した。       

―― なんなん?――僕なんもし
てないやん、と一人ブツブツと呟
いている市丸には決して言ってい
ない。事実上そうなのであろうが
俺は言い張る。独り言だと。  

それに間髪いれずに返答をしたの
は市丸だった。毟ろ市丸しかこの
場はいないが、        

「いないん、僕だってなぁ〜もう
一時間以上待ってるんよ?せやの
に…」            

こんな仕打ち酷いやん、―― 乱
菊怖いし、僕なんもして――… 



強制的に戯れ事は聞き流した。 

出たのは愚痴でも罵倒でもなく溜
息だった。余計に疲れた、うなだ
れるように肩を下げる。手に持つ
報告書を、透明な硝子の板一枚、
その下に空間を置きまた一枚の板
の硝子で作られた机に乱暴に置き
――、息苦しかったネクタイを片
手で緩ませ、ピッチリと来た埃の
スーツを適当に放り投げた。ドッ
と疲れた身体を放り出すように俺
専用の一人用の赤いソファーに全
体重を預けた。あー、怠い。マジ
で。             

「スーツ捨てればいいやん。収入
もあるんやし買えば?」    
「お前は死ぬな」       
「なんでぇ!?」       
「物を大切にしねぇー奴は死ぬっ
てばあちゃんが言ってた」   
「おばあちゃん、ヤクザかなんか
!?」            
「普通の専業主婦出身だ」   
「多分それ嘘やろ…」     

市丸は自分が一番の被害者ではな
いかと口を尖らせる。そうしてゆ
ったりと緩慢な動作で磨いた綺麗
サッパリの黒いソファーに座り込
み頭を垂れ下げうなだれた。  












20101222





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