underground.X

□ピンクマグマU
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「も〜、どうしてこんな事になるの」
「しょうがないじゃん自然災害なんだから。課長のOKも貰ってるんだし、ゆっくりしてこうよ」
「…君はどうしてそうお気楽なのかねぇ」

そう嘆く伊達さんは、すこし古びたビジネスホテルのロビーで諦めたように天を仰いだ。







半分冗談で誘ったのに、まさか本当に伊達さんが1日くれるとは思わなかった。
俺達警察は休みだろうが事件や捜査に進展があれば飛んで行かなきゃいけないから、伊達さんは普段からあんまり遠出したがらない。どこに行きたい?って訊いたら『釣り堀』って返ってきた(色気もクソもない)(でも趣味が一つ判った)。
今俺の車が車検中で、伊達さんは車を持ってないから電車で移動する事になった。駅に現れた伊達さんは署に来る時と同じような白いシャツに紺のジャケット姿でちょっとガッカリしたけど、表情はリラックスしてるみたい(つかいつもこんな顔か)。

「おはよ。本当に来てくれたんだ」
「来るよ。約束したでしょ」
「まぁね(笑)でも本当に付き合ってくれるとは思わなかったからさ」
「で?どちらに連れて行っていただけるんでしょうか」
鞄から雑誌を取り出しあるページを見せると、伊達さんは覗き込みながら少し目を見開いた。
「ミハエル・S・マーティンの世界…これって」
「そ、今来日してる世界的に有名な建築家。ちょっと遠いけど伊達さんこういうの好きでしょ?」
「よく知ってるね」
「いつもなんかそういう雑誌読んでるじゃん。しかもこれ今日までなんだよね。良かったよ、休みが合って」
雑誌をしまいながら言うと、伊達さんの視線が張り付いているのに気付いた。
「…なに」
「いや…」
「何、気になるじゃん」
伊達さんはいつもの仕草で頭を掻いた。
「…久遠くんてモテるでしょ」
「は?なにいきなり」
「意外と真面目だし正義感あるし、優秀な鑑識官だし、たまに暴走するけど」
「それって素直に喜んでいいの」
「褒めてるんだよ。だから解らない。どうして俺のことなんて知りたいの」

穏和な瞳が、少し戸惑うように俺を映していた。







「好きだからだよ」
《〇〇行き到着致します。白線の後ろにお下がり下さい》






「…え?今何て」

ホームのアナウンスと被って聞こえなかったらしい。伊達さんは一歩近付いてくっきりした二重を瞬かせた。

「…何でもない。行こ、電車着ちゃうよ」

首を傾げる伊達さんの腕を掴んでホームに向かう。

口の中で小さく舌打ちした。
何やってんだ俺。こんなとこで言うつもり無かったのに…あんたがあんな事言うから。



電車に乗り込んで、チラッと伊達さんを見ると気持ち良さそうに笑みを浮かべて車窓を眺めていた。
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