underground.X

□strawberry milk
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「少し痩せたか」
「ただの夏バテです。それにあなたに言われたくありませんよ」

二週間振りに顔を合わせた三上は多少面やつれしたように思えた。三上は穏和に見えながらも眼光鋭い瞳を、どこか遠くに思いを馳せるように細めた。
「今年の夏は…暑かったからなぁ」
「……」
「小僧はどうしてる」
「相変わらずですよ」
「足引っ張ってねぇだろうな」
「大丈夫ですよ…でも最近は少し、雰囲気が変わってきたかな」
穏やかな笑みを浮かべる伊達に、三上は口元を緩ませた。
三上が心配しているのは昔も今も変わらない、生きていたら自分の子供と同じ歳の伊達だけだ。
しかし、世の中に埋もれている法から逃れた犯罪者達を裁く為とはいえ、三上は伊達の大事なものを奪い、あまりにも過酷な運命を背負わせた。本来なら一番憎まれてもいいはずの行いを犯したのだ。
にもかかわらず、伊達は足繁く面会に訪れてくれる。
伊達はいつも面会時間ギリギリまで三上と向き合っていた。その間、ほとんど会話は無い。ガラス一枚で隔たれた部屋の中で、ただいつものように…三上のBARで向き合っている時のように時間を過ごした。






「…時間です」

立会人の合図に腰を上げ、
「これから寒くなりますから、体に気をつけて下さい」
と目を合わせると、三上はいつものようにニヤリと笑い短く言い放った。






「じじぃ扱いすんじゃねぇよ」








拘置所からの帰り、伊達は三上のBARに立ち寄った。看板に薄くかかった蜘蛛の巣が、主の居ないことを物語る。
おそらく、三上がこのBARのカウンターに立つ事は二度と無い。
2人の命を奪った罪は、それだけ重いのだ。
休業中にしてあるものの、いずれはこの店も手放さなくてはならないだろう。

伊達は井筒に辞表を提出した時、このBARを引き継ぐつもりでいた。どこまで本気だっのかわからないが、ずっと夢だったという三上の店を、いや三上の帰る場所を守りたかったのかもしれないー…







いつもの笑顔で出迎えてくれる三上の姿を思い描いて、伊達は扉を開いた。
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