underground.X

□手のひらの凶器
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「…あれ、携帯変えた?」

テーブルに置いてあった伊達の携帯に姿勢を落とし、冴子は僅かに眉を上げ煙草に火を点ける手を止めた。

「ああ…この間容疑者ともみ合ってるうちに壊しちゃってね」
伊達はストローから口を離し三日月の瞳のまま、さり気なく携帯をジャケットのポケットに落とした。冴子は火のついてない煙草を弄びながら、大して興味も無さそうに「ふぅ〜ん…」と呟くと、カチリと赤い火を灯した。



今日も他に客の居ない三上のバーはゆったりとした時間が流れている。
主の差し出した琥珀色の液体で喉を潤すと、再び冴子が口を開いた。

「そういえば、こないだあの子に会ったわ」
「あの子?」
「あの、ほら派手なアロハ着てる軽そうな子」
冴子の例えで直ぐにそれが誰か脳裏に浮かび、伊達は苦笑を漏らす。





「あの子も、あなたと同じ携帯持ってたなぁ」





三上の視線がチラッと伊達に走ったが、当の本人は表情も変えずいちごミルクを嚥かしている。
世の中に同じ携帯を持っている人間なんて珍しくないし、冴子自身もそれがわかっているのを解っているからだ。

それを知ってか知らずかカウンターから三上が口を出した。
「流行ってるんじゃないの?俺は携帯持ってないから知らないけどさ」
「マスター携帯持ってないんですか?」
「必要ないからね」
「え〜、不便じゃありません?」
「別に。あ、今じじいだからだとか思った?」
「思ってませんよ(笑)」

そんな三上と冴子のやり取りを聞きながらいちごミルクを飲み終わった伊達が「ごちそうさま」と席を立った。
その後ろ姿を見送り、冴子が口を歪める。




「マスターが携帯持たない理由、当てましょうか」
「なに」



「…縛られたくないから、でしょ?」



冴子の目が光り、三上は苦笑いを浮かべ伊達のグラスを下げた。




end








伊達さんが久遠に携帯を貸すシーンが好きです。そうそう簡単に携帯は貸せないよ。
久遠と伊達さんが同じ携帯持ってたら萌えると思って思い付きで書いたお話ですた。

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