underground.X

□ピンクマグマV
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始発で戻り、一旦自宅に寄って署に着いた時には10時を回っていた。
課長に挨拶をしてデスクに着くと、さっそく宮城君がパッチリした瞳を瞬かせながら話し掛けてくる。
「珍しいですね、伊達さんが遅刻するなんて。具合でも悪かったんですか?」
「ああ、いや」
「珍しいが別に何の支障もねぇよ。来たってぐうたらしてるだけだからな給料泥棒が」
来栖の毒舌に頭を掻いていると扉の向こうからさっき別れたばかりの久遠が顔を出した。
「伊達さん、これ昨日パンフ置いてったっしょ」
ひらひらと薄い冊子を掲げながらニヤリと笑う。捜査一課に居た刑事達の視線が久遠に集まる中、慌てて駆け寄り背中を押した。
「ああ…ありがと、でもわざわざ」
「伊達さん、昨日のお休み久遠さんと出掛けてたんですか?」
美菜ちゃんがデスクにお茶を置きながら言うと来栖の眉間に皺が寄る。
「あぁ?何だお前ら、休みに一緒に出掛けるような仲だったか?」
「いや、それは」
「俺が誘ったんだよ」
「久遠」
「これ、俺が好きで行きたかったんだけど1人じゃつまんないし、けど他に興味ある奴いないしさ、伊達さんがちょうど休みだっつうから付き合ってもらったんだよ」
そう言ってまたかざしたパンフを堀田が受け取り捲る。
「はぁ〜、お前こんなの好きなのか。友達いなそうだなやっぱり」
呆れたようにパンフを投げ返しその場を離れると、他の刑事達もそれぞれ持ち場に散っていった。








久遠が勝手に自室にしてしまった鑑識課倉庫は殆ど人の出入りが無い。『後で部屋にきて』というメールに従い部屋を訪れると、だらしなくデスクに顎を乗せた久遠はタンクトップ一枚で背中を向けていた。
小麦色の肌と同化するような痛々しいそれが目に入る。

「何で俺と出掛けたの知られたくねぇの」
「別に知られたくない訳じゃないよ。ただ言う必要もないだろう」
静かに腰を下ろすと、身体を起こし少し唇を噛んで俺を睨んだ。
綺麗な、真っ直ぐな瞳だと思った。




「あんたはそうやって、いつまでも俺を受け入れないつもりだろうけど」





「あんたが思ってるほど、俺は弱くない」





「あんたの傷ごと、背負ってみせる」








そんな言葉を聞きながら、頬に何か触れた気がするが



その瞳に吸い込まれるように、視線を外せなかった。










「好きだよ、伊達さん」










どろどろと、マグマが流れ出す。







もう誰にも、止められない




end
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