学園もの

□トライアングル
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角度が違う二つの線は進むにつれて近づいていくことはあるが
交わった後は必ず離れていく



うららかな春の午後。

五時間目は数学。

だるい。
ひたすら。

けど、僕は他の奴らみたいに怠けたりはしない。


深い意味まで考えず、テストのためだけに勉強してきた。
いやもっと正確に言うなら、
「僕はここにいるバカな奴らとは違うんだ」
ってことを証明するためだけに僕は。
全ての時間を犠牲にして、ただひたすら勉強してきた。


交わった後は必ず離れていく

イコールを作った外国のなんとかって学者の言葉。

テストに出ないなら特に気にする必要は無いハズなんだけど。

それでも僕の心は
「これは、重大な、何かだ」
ということを察知していた。
眩暈がした。

大人って平気でこんな残酷なことを言うんだよな。



チラっと振り向き、廊下側後方のキムくんを見る。

キムくんは夢の中だ。

傍らには、僕と同じメーカーの消しゴム。

ぷっくりした唇とふわふわした髪が気持ち良さそう・・・



いつか、キムくんの夢の登場人物になってみたい。


思ったそばから激しい自己嫌悪に陥るのは分かってるけど、
というかいつものことだけど、
それでも、夢みたいな妄想を止められない。


僕も結局、他の奴らと変わらないのかな・・・




あぁまたいつものやつだ。
こうなってくるともうヤバイ。
ひたすら努力して築き上げた「自分」っていうアイデンティティーが、
ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
まぁそもそも崩れ落ちる程の「自分」なんて、あるのかどうかも怪しいんだけど。
「じゃ、今日はここまで〜。各自復習しておくように。」



僕のため息を聞いてたのか、いいところでチャイムが鳴った。


さっきまでお通夜みたいだった教室に、パーッと光が射す。
まぁ僕の元には届かない光ではあるが。


クラスの「目立つグループ」の男子が、キムくんにしきりに話しかけてる。

「昨日テレビでさぁ〜」
「マジでー! ギャハハ。」

・・・あの男子は嫌いだ。

浅はかで軽薄でバカ騒ぎしたいだけの人種。
キムくんの素晴らしさなんか全く分かってないし見てもないくせに。
キムくんの傍にいて、その洩れた光で自分が目立ちたいだけのくせに。


なのにあいつは、僕にはなかなか向けられないレベルのキムくんの笑顔を、いとも簡単に引き出す。


悔しい。

ムカっとくるけど、僕は怒るキャラじゃないから怒れない。
だいいちこれは正当な怒りではなく、単なる嫉妬だ。
キムくんの手を取って廊下へ出てみたいけど、僕にはそれもできない。


・・・・・・・なんでなんだろう。

キムくんはこんなに素敵で、このくだらない学校で唯一特別な人なのに、
どうしてこんなくだらない奴らの中であんな楽しそうに笑うんだろう?


あーやだな。


キムくんはただ居るだけで、僕が・何を・どう思うのかを確認させてくれる。

でも、それと同じくらい、僕の醜さにも気づかせる。


自己防衛のために必死で作ってきたこの壁を取り払われたら、
もう僕には何も残ってないのに。
 

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