きゅうまんだー

□よ
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ぐすり。自分以外の人間が鼻を啜る音が、自分の部屋の隅から聞こえた。彼の中では自分はすっかり慰める人間だとインプットされてしまったらしい。モビーにやってきて泣くときは、必ずベッドの足元の僅かなスペースに収まりべそをかく。体格に合ってないんじゃないかとか、いろいろと言ってやりたいが我慢我慢。ああでも、なんだかなあ。

目が離せない、放っておけない、心配だから側にいる、世話を焼く、かわいい。これから連想出来る対象者と言えば、まだ自分のこともままならぬ子供だろう。誰かに庇護されないと生きていけない、小さな小さな子供だ。間違っても三十路半ばの大の男に抱くような感情ではないはず。しかし、自分の目の前でしょぼくれている彼に限っては別であると豪語出来る。それも大人数で、胸を張って生きているとは言い難い男達ばかりが。

ぐすん。鼻を啜る音はさっきよりも大きい。いい年こいた中年男が何を泣いているんだとも思うが、中耳炎か蓄膿症になったらどうするんだと甲斐甲斐しくティッシュを持っていってやる自分も大概だ。





「ほら、鼻水と涙拭けよい」
「……ぐずっ」
「あーもう、わかったわかった」





ほれ、ちーん。ティッシュをタトの鼻に押し付けながらそう言えば、素直にずずずっと鼻水をかむ。なんだかなあ。些か几帳面に使用済となったそれを丸めてごみ箱に捨て、ぼんやりと窓の外を眺める。









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