きゅうまんだー

□だ
1ページ/3ページ








知り合って数年の可愛い可愛い犬がいる。そいつは見た目に反して…いや、見た目通りどじを踏むことが多くて見ているとなかなか面白い。だからつい、余計に構ってしまうのだ。構い過ぎると嫌われるなんてことは、頭の中では十分にわかっているのだが。それでもやはり、どうにかこうにか構ってしまう。





「タト、ちいとこっちにこい」
「な、何かしないか?」
「あん? 何かって、何をだい」
「う…、」





海風に辺りながら煙管を吹かせていると、ふらふらと頼りなく甲板を歩くタトを見つけた。おそらく、新しく白ひげ海賊団に入った家族達の刺青を彫っていたんだろう。黒と濃紺なんて地味な色合いを重ね着ている彼は、かなりくたびれているようにも見える。仕事道具を持っているから転んだりぶつかったりはしないだろうが、やはり何かあるんじゃなかろうかと心配だ。

声をかけてちょいちょい手招いてやれば、警戒心を剥き出しに表情を窺ってきた。中型犬みたいで可愛い。しかし自分の行いが悪いとは言え、まるで毎回悪戯やちょっかいをかけているみたいな言葉を吐くのは頂けない。ほんの少しばかりむっとしたのでにやりと口の端を吊り上げて笑ってやれば、タトはびくんと勢いよく背筋を伸ばした。本当、こちらの心をくすぐる反応ばかり返してくれるから堪らない。





「別に取って食いやしねえさ…ほら、今日は綺麗なべべも持っちゃいないだろ?」
「そうだな…あ、いや疑っていた訳じゃなッ!」
「っとと」





傾いてすらいない平らな甲板でどうすれば転べるのか。倒れかけた身体と大切な仕事道具を支えてやれば、彼はちょっと眉を寄せて礼と謝罪を述べる。









次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ