CLAP Novel

□Valentine day
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◇Bitter Chocolate◇



今日は2月14日。誰もが騒ぐヴァレンタインですよ。街中浮かれまくりですから!ってかカップルが多いんですよ!
すれ違う人みんなが仲良く腕組んじゃったりして。なんだか街に居づらい雰囲気ですよ。今、一人で歩いてるし。
あたしは一人で街を抜けて閑静な住宅街へと入る。彼方はたぶん今日も仕事。だからチョコ渡して、今日は帰る予定。
だって今日は平日だし。明日も会社だろうし。
目的のマンションの入り口に入り、エレベーターを呼ぶ。時刻は7時半。残業だったら家にいないなぁ。……考えて、なんだか凹んでしまった。
部屋番号を確認してインターホンを鳴らす。程なくして聞き知った声が聞こえた。

『はい?』
「あたし。開けて?」
『……真綾?』

うん、と頷くとブチッと切れるインターホン。なんで?と思ったら玄関が開いた。
中からネクタイを緩めた姿の彼方。どうやらさっき帰ってきたらしい。

「どうした?」

首を傾げる姿は本日がヴァレンタインだということを忘れきってるのだろう。だからあたしは苦笑しながら紙袋を渡した。

「はい、ヴァレンタインのチョコ!」

彼方は意表を突かれたような顔をした。たぶん彼方はイベントにあんまり興味がないんだと思う。下手したらあたしの誕生日も忘れてるかも。
彼方はありがとう、と言いながら紙袋を受け取った。その姿にあたしは満足する。

「じゃああたしは帰るね」
「は?」

あたしが帰ろうとすると彼方がなんで?というようにあたしを見た。だって明日会社でしょ。迷惑になる前に退散しようと思ったんだけど。

「いつもは用が無くても入り浸るくせに。いいから入れ」

どうせだからチョコの感想を聞けと言う。どちらかと言えば聞きたくないんだけど。渋るあたしの腕を掴んで有無を言わさずに部屋に引き入れた。
彼方は扉の鍵を閉めてさっさと奥へと行く。こうなったら仕方がないとあたしも靴を脱いだ。
入るとすぐに脱ぎ捨てられた上着が目についた。どうやら帰ってすぐだったらしい。彼方は包装紙を破くと(それは盛大に破いた)チョコを一つ、口に放った。
トリュフで甘さ控えめにしてみたんだけど。

「…あっま」

彼方には足りなかったらしい。試しにあたしも食べてみたが、そこまででもなかった。あたしが普段、甘すぎなだけかもしれないけど。

「おいしい?」
「不味くはないけど、甘い」

そこは素直に旨いって言いなさいよ。せっかく持ってきたのにさ。
彼方は拗ねた顔をしたあたしを見て吹き出した。失礼極まりないけどさ。

「嘘。旨い」
「……最初からそう言って」

不機嫌に言ったら彼方はますます笑った。結局甘い甘い、と言いながらも全部食べてくれる。
空になった箱を見てあたしは満足した。

「ホワイトデー、楽しみにしてるね」
「あーはいはい」

しっかり釘もさしておく。軽くあしらわれたけど。
でも彼方はちゃんと用意してくれる。それを知っているからあたしは楽しみなのだ。




―END―
 

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