CLAP Novel

□青空の下。《番外編》
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◇青空の下。《番外編》◇


「先生ってさ」
「うん」
「恋人とか居ないの?」
「……うん?」

唐突な質問に先生は目を丸くして私を見た。まぁ、いきなりこんなこと聞かれたら、普通はこういう反応だよね。
日曜の麗らかな陽気。先生は相変わらず真っ白な白衣を着て、診察室に篭りっぱなし。先生の周りには女の人の影すら無い。
退院してから一週間とちょっと。私はほぼ毎日、先生に会いに来ている。先生も毎日休みなく来ている。
個人的には病院で彼女さんとばったり、みたいなシチュエーションを楽しみにしているのに、それも無い。

「芽依ちゃんは、僕に恋人が居て欲しい?」
「欲しいってわけじゃ…いないの?」

私が聞くと、笑いながらその言葉に当てはまる人は居ないね、と言った。
ちょっとだけホッとする私。なんでかは分からないけど。

「芽依ちゃんは?」
「え?」
「恋人とか居ないの?」
「……居ないよ」

いらないよ、恋人なんて。私は先生の居る空気が好きだし、他人と一緒に居るのは慣れないし好きじゃない。
唯一の例外が先生。きっと、後にも先にも先生だけ。
先生はそう、と呟いただけだった。淡白な反応に拍子抜けするけど、これが普通なのかもしれない。
思えば私と先生の関係って何なんだろう。主治医と元患者?なんだか他人よりも他人らしい表現に、私は笑ってしまった。

「芽依ちゃん?」
「なんでも無い。先生、診察は?」
「午前中に終わったよ」

答えながら先生はコーヒーを淹れに席を立つ。なんだか拍子抜け。先生の診察姿、気になってたのに。
広い診察室に先生と私の二人だけ。看護士さんの姿も無い。というか、来るようになってからこの部屋で先生以外の人を見たことがないけど。

「――お家の人とはどう?」
「、別に普通。今までとあまり変化ないよ」

唐突な話題に私は少し固まったけど、答えた声は震えなかったと思う。先生は少し、私を見ていたが結局何も言わなかった。
先生にも言ったとおり、家に特別な変化は訪れなかった。変わったことは、挨拶程度の会話が行われるようになったこと。それだけでも大進歩なんだけどね。

「学校は?」
「そっちも普通だよ。来週からテストが始まるけど」

テストかぁと呟きながら先生は懐かしそうな表情になった。なんでも出来た先生は優秀な生徒だったんだろうな。

「芽依ちゃん、分からないところとか無い?」
「……ある」

長くない入院生活の間にも、勉強は確かに進んでいて。私は結構危なかったりする。
小さく呟いた私を見て、先生は見せて、と言ってくれた。



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