CLAP Novel

□死神の憂鬱
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◇死神の憂鬱◇



俺たちの仕事は退屈で残酷だ。


俺は目の前で眠る少女を見て、手元にある名簿に刻まれた名前を見る。『井上沙耶』間違いない。こいつだ。
白くて細い腕。点滴と注射の痕が痛々しいまでに目立っている。俺が今回、回収しなければならない魂の持ち主。

「…まだガキじゃねぇかよ…」

思わず呟いてから嫌な気分になった。いつもそうだ。自分達は懸命に輝く命を刈り取っていく。名簿に名前が刻まれたというだけで。
誰かが『これは俺たちに与えられた罰なんだ』と言っていた。だとしたらなんて残酷な罰なのだろう。終わること無い虚しさが、いつだってまとわりついている。

「あと、三日か…」

あと三日でこの子供の命は終わる。そしたら俺は、自分の仕事をしなくては。
寝入る少女の顔を見ながら俺は近くにあった椅子に座る。見た感じはまだ十代。俺は寝てる少女の頬に手を伸ばして、開かれた眼に固まった。

「っ、」

思わず手を引っ込める。よく考えたら、俺が見えるわけないんだから焦る必要なんて無いのに。俺は自分の行動に苦笑して「あなた、誰?」一瞬で凍りついた。
こちらを見る視線はまっすぐに俺を見つめていて、しっかり見えていることが分かった。
俺は衝撃を受ける。そんな馬鹿な、見えるはずが無いのに。人間には見えない。――『俺たち』のことを知る者は居ない。

「誰?」

返事の無い俺に、少女が再度問いかける。咄嗟に答えようとして「、」答えられないことに気がついた。
狼狽えながら俺はバカみたいに口をパクパクさせた。それを見て少女は笑いながら「私、沙耶って言うの」と名乗る。それから「名前、無いの?」とも。
名乗っていいのだろうか。別にあだ名みたいな物だし、俺の名前に大きな意味は無い。結局俺は、純粋に見つめてくる沙耶の瞳に負けた。

「……レン」

沙耶の口が小さく俺の名前を呟く。それから楽しそうに笑って俺を見上げた。その視線に俺は思わず身を逸らす。

「ねぇ、話し相手になって」
「………」

俺は脱力して顔を沙耶のベッドに埋めた。







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