Long Novel

□放課後アダージョ
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濃いブラックコーヒーの香り。それが私の、あいつに対する最初の印象。それは二ヶ月経った今も変わらない。今はそのブラックコーヒーに、ミルクキャラメルも足されたんだけど。
放課後の特に用も無い教室で、一人で机に突っ伏して寝てる。それが、あいつ。

「柳瀬」

名前を呼んでも身じろぎ一つしない。教室で爆睡してるっていうのも問題あると思うけど。
私は窓際の席に近づいて、寝てる柳瀬の肩を叩いた。

「柳瀬、起きて」
「…ん…」

軽く呻いて、その後小さく動いて私を見上げた。ぼんやりした目と視線が合う。

「…………亜季?」
「おそよう。よく寝てたね」
「何時、今」

午後四時半と言ったらマジでーと言いながらまた机に突っ伏した。モカブラウンの色をした柔らかそうな髪が目に入る。相変わらず美味しそうな色をしている。
私は柳瀬と向かい合うように座り、頬杖をついて校庭を見た。ほとんどの部活が練習の終盤を迎えていた。
たぶん、柳瀬を待ち続けたら帰るのはどんどん遅くなるだろう。

「柳瀬。私、帰るね。柳瀬も遅くならない内に帰りなね?」

そう言って荷物を持って席を立つ。だけど、歩こうとしたら袖を何かに引っ張られた。見たら柳瀬の腕が伸びている。

「……俺も、帰る」

心底眠そうに、そう言った。
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