Short Novel

□アクマのささやき。
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「堀内さーん! 今日の飲み会って堀内さんも参加しますか?」

突然聞こえた舌足らずの声にパソコンキーを叩いていた私の指が止まる。振り返れば新人の宮内さんがこっちを見ていた。
期待に満ちたその顔に自分の頬が引きつるのが分かる。飲み会か。正直、行きたくない。

「私はパスしようかな……」
「えー! そう言って前も来なかったじゃないですかぁ」

宮内さんが不満そうに頬を膨らませる。確かにここ最近、私は飲み会の誘いをすべて断っていた。
だって飲み会に良い思い出がないんだよね。というか嫌な思い出が……。思わず顔をしかめれば、宮内さんがますます不満そうだ。

「前回断ったとき、次は絶対に参加するって言ってましたよぉ」
「そーだっけ……?」
「言ってました! 行きましょうよ」

そう言って宮内さんが可愛らしく頬を膨らませる。若いっていいなぁ、なんてそろそろ三十路が見えてきた私は内心で苦笑した。

「部長も来れない、って言うし。堀内さんだけでも!」

何気なく言ったであろう宮内さんの言葉に、私は動きを止める。部長は来ないだと?
思わず窓際のデスクを見た。部長はいない。今日は朝から取引先に行っている。

「……行く」
「え、ホントですか?」
「うん。行く」

はっきり言い切った私に宮内さんが大袈裟なほど喜んだ。大丈夫。元凶さえいなければ、問題なんてないはず。
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