Short Novel
□猫とマタタビ。
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まるで猫がマタタビに吸い寄せられるように。奴は私に寄ってくる。 たとえどこに隠れていようとも。
「いいんちょー」
間延びした呼び声。ここ一ヶ月ですっかり聞きなれたそれに、私はため息を抑えられなかった。
振り返ればド派手な金髪が一際目を引く。「探したよー」そう言って私に走り寄ってくる姿はまるで犬のようだ。
「…藤峰くん、先生に呼び出されてなかった?」
「あ? そんなもん逃げたし」
やっぱり。そんな気はしてた。あたしは背中に引っ付いてくる藤峰くんの右手を掴んで歩き出す。それを見て廊下を歩く他の生徒はすぐさま脇に退いた。
「なんでこいつらいつも脇に寄るんだ?」
「……さぁね」
100%藤峰くんが原因だけど。説明が面倒になった私はそれを投げ出した。
問題児・藤峰拓矢の教育係に任命されてから早一ヶ月。なぜか私は学校中が恐れる藤峰くんになつかれてしまったのだ。
「いいんちょ、どこ向かってんの?」
「職員室」
答えた瞬間、逃げようとした藤峰くんの右腕を掴んで私は職員室に向かった。