Short Novel
□恋愛ループ
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学校からの帰り道、私はいつもそのお店の前をこっそり通る。どくとくの匂いが私の鼻をくすぐる。
そっと覗いた先にはいつものようにハサミを片手にお客さんと話すあなたの姿。思わず私はその姿を目で追ってしまった。
三年前、私は初めてこのお店に来た。閉店間際のお店の中にはお客さんは一人もいなくて、美容師も彼一人だった。うつ向きながら入ってきた私を見て、彼が首を傾げたのを覚えている。
『髪…切ってください』
震えそうになる声を必死に抑えてそれだけ言った。唇を噛み締める。そうしなきゃ今にも嗚咽が漏れそうだったから。
絶対に変に思ったはずなのに、彼は何も聞かず『こちらにどうぞ』と私を椅子に座らせた。目の前の鏡には目を真っ赤にさせた、今にも泣き出しそうな私の姿。
――ひどい顔。
うつ向く私に、彼はまた優しく声をかけてくれる。背後から髪を触られるのが分かった。
『今日はどうしますか?』
『バッサリ切ってください。思いっきり短くして』
それだけ言って私はまた黙る。とにかく髪を切りたかったのだ。いっそのこと丸坊主にだってしたいくらいだ。
肩甲骨まで伸びた髪は私の後ろに立った男の手の中にある。やっぱり彼は何も聞かず、私をシャンプー台に案内してくれた。