CLAP Novel
□50万hit記念小説
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決して広くはない部室に部長と二人っきり。さっきから視線が痛いほど首に刺さっていた。誰が原因かなんて分かりきってるけど。
「…部長、」
「なんだい?」
「さっきからあたしに用事でもあるんですか?」
視線の大元を振り返ればにっこり微笑まれた。途端に部長の周りが普段の三倍輝いたような気がする。無駄にフェロモンを垂れ流しやがって。
あたしは胡散臭いものを見るような目で部長を見た。っていうかさっきよりも近づいているのは何でなんですか。
「近くないですか?」
「気のせいだよ」
「いやいやいや。こっちに来てるじゃないですか」
「愛の成せるワザだね」
意味が分かりませんから! 取り合えず立ち上がって部長から距離を取れば、当然のように部長はその距離を詰めてきた。
「なんで逃げるの?」
「部長が寄ってくるからですよ!」
あたしが叫んでも部長は不思議そうな顔をするだけ。あたしは目の前の男の動きに全霊で注意を払いながらため息を溢した。
目の前にいる男の名は三谷仁。我が写真部の部長である。お祖母さまがイギリス人らしく、日本人離れした顔立ちで女子生徒に騒がれたりもしていた。まぁ、あたしは騙されないけど。
確かに部長はかっこいい。向こう育ちだったせいか女性に優しいしね。――でも問題があるのだ。
「恥ずかしがらずにこっちにおいで?」
「嫌がってるんです!」
両手を広げて手招きをする部長に、あたしは全力で叫んだ。困った顔をする部長からあたしは出来るだけ離れる。
入部したときからあたしはなぜか部長に妙に気に入られ、気が付けばいつも側には部長の姿が……。
ある意味、下手なホラー映画よりも怖い。
部長は少しおかしい気がする。本人はちっともそうは思ってないみたいだけど。
全身全霊で部長を拒絶するあたしを見て部長は困ったような顔をした。両手を下げ、寂しそうな顔をする。
「まるで人嫌いの子猫だね…」
そう言う部長の方が迷子の猫のようだ。少しだけ、罪悪感が込み上げてくる。
別に部長は何もしてないよね。…取りあえず、まだ。少し警戒心を緩めたあたしを見て、部長が小さく笑った。
「変なことはしないからこっちにおいで」
まるで犯人のように両手を上げる。あたしは部長にそんなことをさせたことを少し恥ずかしく思いながら、部長にゆっくりと近づいた。
人馴れしていない子猫のようなあたしの動きを見て部長は堪えきれない、というように吹き出した。それを見てあたしもなんだかおかしくなり、普通に部長に近づく。
――その瞬間、部長の目が光った。(ようにあたしには見えた)
部長は一瞬で間合いを詰めてくるとあたしを正面から抱き締めた。いきなりの事態にあたしは固まることしかできない。
遅れて暴れても部長の手は緩まなかった。それどころかますますぎゅっと抱き締めてくる。
「へ、変なことしないって言ったじゃないですか!」
「これはスキンシップだよ」
「っ…!」
スキンシップじゃなくてセクハラです
(変態! セクハラで訴えてやる!)
(そんなことを言う口は僕がこうして……)
(うっぎゃあ!)
―つづく―