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【柳瀬×亜季】



視線を感じて目を上に向ければ、頬杖をついてこっちを見る柳瀬と目が合った。首を傾げればふわりと笑う。

「どうしたの?」
「んー…」

柳瀬は迷うように天井を見つめたあと、まるで嬉しいものを見つけたというような顔で私を見た。

「最近気づいたんだけどね?」
「うん」
「亜季からうちの匂いがするなぁって思って」

一瞬、柳瀬の言った意味が分からなくて、あたしは眉を寄せたまま固まる。そんなあたしを見て、柳瀬はもう一度丁寧に言い直した。

「俺の家の匂いがする」

柳瀬の家の匂い? それって……。

「コーヒーの匂い?」
「あぁ、それだ」

私の言葉に柳瀬は納得したように笑った。私からコーヒーの匂い?意外な言葉に、私は首を傾げる。
柳瀬の家は喫茶店だ。おまけに柳瀬は無類のコーヒーの好き。それこそ匂いが染み付いちゃうくらいに。
でも私はそこまでコーヒーが好きというわけではない。コーヒーの匂いが染み付くような環境にも居ないし…。
新発見に気づいた柳瀬はなんだか嬉しそう。それが分からない私はなんだか面白くない。

「なんでそんなに嬉しそうなの?」
「だってね、」

柳瀬は本当に嬉しそうに笑いながら、私の髪を一房手に取った。

「匂いが染み付いちゃうくらい一緒に居るってことでしょ?」
「あ…」
「それって幸せだなって思って」

無邪気に語る柳瀬とは裏腹に、私は自分の体温が上がっていくのが分かる。
柳瀬と一緒に居るのが当たり前になっていた。それこそ匂いが染み付くほどに。
真っ赤になる私を見ながら柳瀬が身を乗り出す。次の行動が分かった私は、ますます動けなくなった。

「これからもずっと一緒」

柳瀬の顔が私の顔に近づいてくる。目を閉じる瞬間、強く感じたのは。
柳瀬の体温と濃いコーヒーの香りだった。











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