Long Novel

□放課後アダージョ
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落葉樹は秋らしく色づき、葉を落とし始めている。最近は風が冷たくなってきた。
私が柳瀬と初めて話したのはまだ残暑が厳しかった九月。[プリント、間違えられてた]そう言って差し出されたプリントには柳川という、私の名前。柳瀬と柳川。出席番号は隣同士なのに、話したのはその日が初めて。

「……さみぃ」
「セーター着てないからだよ。マフラー貸そうか?」

冷たく吹く風に身を縮こませる柳瀬は、見てるこっちまで寒くなりそうだった。柳瀬はいらない、と言ったけど私はその首にマフラーを巻き付ける。柳瀬は身長が高いから苦労したけど。

「亜季が風邪ひく。俺はいいから」
「私はセーター着てるから平気」

しばらく柳瀬と私は無言で睨みあったけど、柳瀬がくしゃみをしたからそのまま巻き付けておいた。
柳瀬は私を亜季、と呼ぶ。いつからそう呼んでいるかはもう覚えていない。気がついたら、だった。
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