Long Novel

□コロンブスの卵
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容赦ない夏の日差しが地上に降り注ぐ。クーラーのない部室はまさしく殺人部屋と化していた。強風設定の扇風機は熱風を部室に送り続けている。

「暑すぎる……」

部室の奥から聞こえた声に顔を上げれば、机に突っ伏した高山先輩と目が合った。一瞬、私の心臓が跳ねる。
高山先輩は冷やしたタオルを首筋に当てながらへらりと笑う。その笑顔に、自分の顔が熱くなるのが分かった。
暑さが増す。私はうちわを扇ぐ手を早めた。

「ねぇ、茉莉ちゃーん」
「……なんですか?」

赤くなった顔を見られたくなくて、微妙に顔を逸らしながら返事をする。高山先輩は顎に手を当てながら私のことを見ていた。

「暑いね」
「そうですね」
「冷たいもの食べたいね」
「そうですね」
「買ってきて欲しいなぁ、なんて」

沈黙の睨み合いが始まる。まぁ、結果なんて目に見えてるけど。
高山先輩の目がまっすぐ私を射抜く。その視線の強さに、私は呆気なく屈した。

「……高山先輩がお金を出してくれるなら」
「え!」

視線を逸らしながらそう言ったら高山先輩が驚いたように私を見た。それから困ったような顔で笑う。
私は彼がそんな顔をする理由が分からなくて、ちょっと困った顔をしたんだと思う。そんな私に苦笑した。

「いや、頼んどいてあれだけど断ると思ってたから」
「……先輩命令ですから」

照れ隠しにそんなことを言えば、高山先輩が立ち上がる。そのことに私の心臓はまた跳ねた。
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