Short Novel
□アクマのささやき。
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区切りの良いところで仕事を終わりにし、時計を見る。6時前だった。飲み会は7時頃って言ってたから十分間に合う。
私はまとめていた髪を下ろして、手櫛で適当に整えた。口紅だけ確認して、荷物をまとめる。
「堀内さーん! お店、初めてですよね? 一緒に行きましょー」
こっちに向かって走ってきた宮内さん。朝とは化粧や髪型が違う。気合いが入ってるってすぐに分かった。
宮内さんに引っ張られるまま、私たちは会社を出る。お店は駅前にあるようだ。
着いたところにあったのはよく見るような居酒屋。のれんに描かれたひょうきんな猫の絵が可愛い。
「えぇっと……」
店に入った宮内さんが辺りをキョロキョロと見回す。すぐに奥の座敷で手を振る新塚君を見つけた。
二人でそこに行けば、新塚君が驚いたように私を見る。え、なんかしたっけ。
「珍しいですね。堀内先輩、最近はこういうの来なかったのに」
「あぁ……」
そういうことね。そう言えばこの前の飲み会、新塚君に誘われたのに断っちゃったんだっけ。
「今日は宮内さんに誘われたから」
「えー! なんすか、それ!」
「可愛い子の誘いは断れないでしょ」
そう嘯く私に、嬉しそうに喜ぶ宮内さん。私は彼女に引っ張られるまま、空いていた場所に並んで座った。
「何飲みます?」
「生ビールで」
宮内さんが注文を聞きに来た店員に生ビールとカルーアミルクを頼む。
あぁ、こういうところが若さがなくなったところだな、なんてちょっと虚しく思った。