Short Novel

□無気力ガール
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菜々は少し驚いたような顔をした後、物凄い勢いで俺の手を振り払った。心なしか耳が赤い。照れたのか、と思うと今度は笑えてきてしまった。「わ、らわないで!」「あ、噛んだ」思いっきり叩かれた。意外と痛かったので俺は笑うのを止める。
菜々は不貞腐れたような顔をして俺が座っているほうとは違う方に顔を向けてしまった。ちょっとやり過ぎたかも。

「・・・・・・・・和くん」
「怒った?」
「毎日来なくても良いよ」

予想とはまったく違う言葉に俺は目を丸くする。菜々は相変わらず向こうを向いたまま。

「・・・どういうこと?」
「大学だって忙しいでしょ?ここに毎日来なくても良いから、和くんはもっと自分のことをして」

ぶっきらぼうに言われた言葉に、俺は固まる。軽口で「もう来るな!」と怒鳴られることはあったけどこんな真剣に言われたことは無かった。
俺は菜々の丸くなっている背中を見る。そこからは隠しようの無い「寂しさ」が在るように見えるのは俺だけなのかもしれない。菜々が入院したのは十六のとき。通っていた学校も何もかも辞めて、菜々は治療に専念してきた。もう、それから四年になる。
当たり前の日常が失われてからも菜々は「菜々」だった。だけど体はどんどん痩せ細り、治療だって楽じゃないはず。俺はそれを想像することしかできないけど。

「明日も来るよ。毎日、来る」
「っ!」

菜々の肩がビクリと震えて俺を振り返った。俺は菜々の目を意識して見つめ返し、微笑む。

「俺は菜々に会いたいから来てるの。だからこれからも来る」

せめて、菜々の苦しみを取り除けないのなら、無力な俺は一緒に居ることしかできないから。



だからそんなことを言わないで欲しい。
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