Short Novel

□不器用な恋心。
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 私と咲哉の付き合いは、小学生の時からだから、もう十年になる。これはたぶん、世間で言うところの「幼馴染」だろう。私が小学校入学前に、咲哉の家の隣に引っ越してきたのが、出会いの始まりだ。
 母親の手に引かれながら、咲哉の家に挨拶に行ったことを、今でも鮮明に覚えている。昔の咲哉は天使みたいに可愛くて、最初は女の子だと思った。男の子と知って、本気でショックだったし。

「ほら、咲哉くんに挨拶して」

 母親の足にしがみついてはなれない私の背中を、母親が強引に押す。いきなり咲哉の目の前に押し出されて、私は緊張で口がカラカラに渇いたのを覚えている。昔は自分でも驚くくらい、人見知りだったのだ。
 咲哉は私の顔をじっくり見た後、にっこり笑って「こんにちわ」と、挨拶をする。それを受けて、私も小さく「こんにちわ」と返事をした。
 それから私は、咲哉と一緒に大きくなっていった。どこに行くにも咲哉と一緒。まぁ、主に私が付きまとっていたんだけど。私は咲哉を通して、人との関わり方を覚えたのだ。
 私にとっての咲哉は、同い年の頼れるお兄ちゃんみたいなもの。咲哉に対して、憧憬にも似た感情を持った。私にとって咲哉とは、兄弟みたいなものなのだ。

――そう思っていたのは、私だけみたいだったけど。
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