Short Novel

□恋愛ループ
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シャンプーを済ませてさっきと同じ席に座る。彼は軽く髪の毛の水気を切ると、鏡越しに私のことを見た。

『本当にいいんだね?』

最後の確認。私はそれに大きく頷く。彼は黙ってハサミを右手に持った。その刃がゆっくり私の髪に押し当てられる。

『っ、』

ジャキッという軽い音とともに髪が一房床に落ちる。私は鏡越しにそれを見て、言い様のない虚脱感に包まれた。『大丈夫?』優しいその声に顔を上げれば鏡越しに目が合う。

『泣いてる』
『あ…』

指摘されて、初めて自分が泣いていることに気がついた。慌てて頬を拭ったけれど涙はあとから溢れてくる。
思わず目頭を擦ろうとした私の手を、背後から止められた。後ろを見れば思いがけず優しい笑顔と目が合う。

『我慢しなくていいよ』
『っ、』
『泣きたいときは泣けばいい。誰も見てないんだから』

限界だった。その言葉を聞いた途端、涙が止めどなく溢れて。私は小さい子みたいに大声を上げて泣いた。彼は何も言わず何も聞かず、ただ黙って私の頭を撫でてくれていた。
そのことにどれだけ心が慰められただろう。私はその優しさに甘えるように気が済むまで泣き続けた。
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