短編

□もっともっと近くに居て欲しい
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目の前で一生懸命練習に励むヒロト達が居た。もうヘロヘロのはずで、限界寸前まで体を使い尽くした彼らは、いつ倒れてもおかしくない。なのに目の前にあるボールを無心に追いかけていくから、今日も頑張ってるなあ、って一人で感心する私。だって、今の彼らははきっと、根性だけで動いてるんだもん。


「吹雪くん、パス!」


その中にヒロトも居る。赤い髪の毛に汚れたユニホームを着たヒロトは、なんていうか楽しそう。楽しさだけで、こんな辛い練習をしている彼は前より、ずっとずっと立派なサッカー少年。これで良いんだ。私は、ヒロトが心の底からサッカーを楽しむことを望んでいた。だから、今の彼は私の望むべき彼なんだ。



「秋ちゃん、ヒロトって変わったよね」



なのに、寂しいのはどうしてなのかな。しんみりするのはどうしてなんだろう。
私からの質問に、秋ちゃんは言葉を詰まらせ、困った様な苦笑いを見せた。「いきなりどうしたの?」って、秋ちゃんは私に問い掛けて、グランドで必死にボールを追いかけているヒロトを見つめた。「髪型が?」やっぱり、秋ちゃんには分からないよね。私にだけ分かるんだ。


「ううん、性格とか」

「うーん、宇宙人って言っていた頃より、明るくなったかな」


…そっか、そうだよね。変わったっていうのは、悪い意味じゃなくて、良い意味として受け取れば良いんだ。ヒロトは明るくなった。前より、人らしくなった。普通の男の子になった。それで良いじゃない。なのに、私の頭では、それは違うんじゃないかっていう疑問が沸いて来る。



「ねぇ、それ取ってくれないかい?」

「えっ?あぁ、これ?」

「うん、ありがとう」



そんなことを考えていたら、水分補給をしに来たヒロトに、ドリンクを取ってくれるように頼まれた。
別に、ありがとうも言われたし、彼は笑顔だった。でも、一つ違うのは、


「名前で呼んでくれないんだ」


私の名前を口にしてくれなかったこと。いつからだろう。前はこんなんじゃなかった。グランだった時のヒロトは、どこか寂しげで、それでも私の名前を呼んでくれた。会いたいって言ったら、いつでも会いに来てくれた。



「ヒロト、今日の夕食、一緒に食べよ?」

「ごめんね。俺、円堂くんや緑川達と食べるんだ」



嬉しそうな笑顔。あぁ、やっぱりあなたは変わった。私が望んだ通り、明るくなったのね。
でも、名前も呼んでくれない、一緒に居たいって言っても、去っていくヒロトなら、私は昔のあなたのままで良かった。変わっても、今までみたいに愛してくれるものだと勘違いしていた私は、一人、昔の思い出の中に取り残されて行く。


「また、今度」


私の隣から離れていく、ヒロトに私は何も口にできない。












もっともっと近くに居て欲しい




こんなことになるなら、いっそのこと、最初から変わって欲しいなんて願うんじゃなかったな…。












(宇宙人のまま、一緒に居て欲しいよ)













end













久しぶりのお題。


岡田理紗

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