短編

□注射と悪魔
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(千鶴と山南と山崎)








予防注射自体は怖いものではない。

子供の頃から何度もやってるし、父が医者だから見慣れなれてるし。

そう、注射自体は怖くはないのだ。注射自体は。






つぅと腕をなぞられて体がびくりと揺れる。

それを満足気な顔で見た山南先生は注射を持つ。



「雪村君のこの白雪のような肌に傷をつけるのは気が引けますが…」

「…」


あぁ、この人はこんなキャラだっただろうか。

笑顔で冗談を言うような人だっただろうか。

何故この人はいまだに私の腕を撫でているのだろうか。



居心地が悪そうに俯いていれば、隣にいた山崎君は察してくれたらしい。

山南先生に注意するかのように言ってくれた。



「山南先生。他の生徒も待っているのではやく…」

「分かっていますよ」



やれやれ、山崎君はせっかちですね、なんて言いながら私の腕に注射をあて、

ぷつり、と肌に突き刺した。

それまでのモーションが早かったため驚いて体を強張らせたが、さすが山南先生。

その腕は確かで、あっという間に終わってしまった。



「あ、ありがとうございました山南先生」


やっぱり山南先生すごいや。

本当に上手な人は痛みを感じないって聞いたけど、その通り。

まったく痛みを感じなかった。



若干感動しつつ、山南先生を見たとき。





…。


……あれ?山南先生、なんか目、赤くないですか?







「やばい!山南先生!血の匂いに惑わされて…」

「ど、どうしたんですか山崎君…」

「いいから雪村君は保健室からはやく出るんだ!はやく!」




山南先生は苦しそうにしていたが、山崎君のあまりの剣幕に大人しく保健室を出た。



いったいどうしたんだろう山南先生…。

髪の毛、なんか白髪だらけになってたけど。

お疲れなのかな?

































血のかをり

(あ、お帰り千鶴!どうだった注射?痛かったか?)

(あ、平助君。ねぇ聞いてよ。山南先生一気に白髪が…)

(は??)



*****



(私も自分でコントロールできるようになったはずなんですが…
雪村君の血…それはそれは甘いかをりでした…)

(…………)
 

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