短編

□どうせなら叩いて殴って怒って
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(千鶴と斎藤)







好きなんです、と目の前にいる女に言われた。

即座に無理だと言った。

そしたら女は、





「…キスでいいのか?」

「……どうせ断られる覚悟で言ったんだもん。それくらい、だめかな?」

「…」


それで気がすむのであれば。

俺はその女に唇を押しあてた。





そして女は、満足そうにして、悲しそうにして、去っていた。





(…あんなもので良かったのか?)

もっと粘り強いかと思ったが。意外。

女は簡単に去っていってくれた。

(まぁらくだったからいいが……)




これで用事は終わった。
あとは帰るだけ。

そう思い踵を返したとき、目が合った。



「……千鶴、なぜ、こんなところに…」



彼女はちょうど木の影にいて、名前を呼んだとたんその肩がびくりと揺れた。



そして思い出す。

自分がさっき、女とキスをしていたことに。




「ち、違う…違うんだ」



何が違うのかもはや自分でも分からなかった。

けれど千鶴に見られていたと知ったとき、この胸に浮かんだ思い。

これは確かに……。














「大丈夫です」

彼女は俺の言葉をさえぎるかのように言った。

そして少し困ったような顔で、笑った。



「わたし、言いふらしたり、そんなことしませんから。大丈夫です」



笑った彼女は走って去っていった。

まるでその場から逃げだす様に。

女に告白されてからまだ3分は経っていないと思うのに、何故かもう数十分は経っている気がした。





































嫉妬希望


(…してくれるわけ、はないか)
 

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