小話
□口が裂けても、
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すらり、
鈍い光を放つそれは、静かに目の前の男に向けられた。
すらり、
初めに切っ先が肌に触れる。だが触れるだけで決して傷つけることはなく。
すらり、
次に瞳を隠す邪魔ものを一つ、地面に落とす。
すらり、
その次は頬を通り過ぎ、こめかみ辺りに刃を当てて。
がしゃん、
耳を隠す邪魔ものも地面に落とされる。
すらり、
そして切っ先は男の唇に向けられ。
紅く薄い唇をなぞり。
かり、
唇の横から唇よりも紅く、唇よりもその白い肌に映える血が滲む。
「 」
そこで初めて男が動いた。
痛い、と。
静かに己に刀を向ける男を見下ろした。
刀を持つ男は隻眼を細め。
――男は嗤う。
――男は息を吐く。
――男は刀を投げ捨て。
――男は伸びてくる手を見つめ。
――男は男の髪を掴み、
――男は男の瞳を見つめ、
――男は、
――男の、
(ただ本当に男の唇に噛みついて)
(これはただの存在確認)
end
高万です一応