小話

□口が裂けても、
1ページ/1ページ




すらり、


鈍い光を放つそれは、静かに目の前の男に向けられた。


すらり、


初めに切っ先が肌に触れる。だが触れるだけで決して傷つけることはなく。


すらり、


次に瞳を隠す邪魔ものを一つ、地面に落とす。


すらり、


その次は頬を通り過ぎ、こめかみ辺りに刃を当てて。


がしゃん、


耳を隠す邪魔ものも地面に落とされる。


すらり、


そして切っ先は男の唇に向けられ。

紅く薄い唇をなぞり。


かり、


唇の横から唇よりも紅く、唇よりもその白い肌に映える血が滲む。


「 」


そこで初めて男が動いた。

痛い、と。

静かに己に刀を向ける男を見下ろした。

刀を持つ男は隻眼を細め。


――男は嗤う。
――男は息を吐く。
――男は刀を投げ捨て。
――男は伸びてくる手を見つめ。
――男は男の髪を掴み、
――男は男の瞳を見つめ、
――男は、
――男の、




(ただ本当に男の唇に噛みついて)
(これはただの存在確認)



end


高万です一応

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ