小話

□あなたへ。
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8月10日。

AM9:00。



高杉は窓辺に腰掛け、ゆっくりと紫煙を吐きだす。

空は、青い。
見上げれば眩しすぎるほどの光を放つ太陽。

ちり、と晒したままの左目が痛んだ。

上を見れば馬鹿みたいに明るい太陽。
下を見ればどこまでも広がる青い空。


大して変わらない。


そのままぼーっとしていると、部屋の向こうで誰かの気配がした。

視線は空へ向けたまま静かに口を開く。

「何だ」
「……」

答えない。
一人ではない。
いち、に、さん…し。

もう一度、ゆっくりと煙を吐いて襖を見る。

「――」

口を開いた瞬間、襖が音を立てて倒れた。

倒れた襖の上にいるのは見慣れた幹部たちの顔。

倒れ込んだ来島また子と武市変平太の後ろに、岡田以蔵、河上万斉。
小さく呻き声を上げたのち、また子が声を上げた。

「もー誰ッスか背中押したの!」
「貴女が勝手にこけたんでしょう」
「俺ァ別に何もしてないよ」
「どうでもいいが、ぬしら早く起きないと殺されるでござるよ」

万斉の言葉にまた子がはっと顔を上げた。
視線の先にはこちらをじっと見つめる、鬼兵隊総督殿。

「…何してんだ、お前ェら」
「え、あ、えっと」
「今日は晋助の誕生日でござろう」

万斉が部屋に入り高杉に一輪の花を差し出す。
花は星形で、色は紅い。

「また子殿が騒ぐ故、坂本殿に用意してもらった」
「別に騒いでないッス!晋助様の誕生日を祝うのは当たり前ッス!」
「8月10日の誕生日花だそうです」
「ま、本当は"こけ"らしいんだけどね」

こけをプレゼントするのはあんまりだろう、という事でこっちにしたらしい。

名前は"ルコウソウ"。
花言葉は…世話好き。


(俺にゃあ合わねぇ花だ)


そう思いつつ、万斉の後ろにいる三人の手にも一輪ずつ握られている。
また子が万斉の隣に立ち、武市と似蔵もその隣に並ぶ。


そうして、花を差し出して、





『誕生日、おめでとう』






タイミングも語尾もばらばら。
しかし、その言葉だけははっきりと聞き取った。



高杉は口の端を上げ、普段よりどこか優しい笑みで、心底面白そうに笑う。






「…酒持ってこい」









(晋助、身長の方は)
(うるせェ殺すぞ)






!!HAPPY BIRTHDAY!!
    !!高杉晋助!!


 

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