□満たされた笑みで
1ページ/1ページ

 苦しいと、
 その目が訴えていた気がした。



 「……」

 『あ、あの……』

 「……バトルか」

 『は、はい!お願いします、レッドさん』

 バッジも16個全て集めて、ようやく来れたシロガネ山で。私はずっと憧れだった、レッドさんに出会えた。

 最強のポケモントレーナー。一人で、R団を解散させた人。

 そんな、伝説みたいな人。……旅を続けるうちに、いつか、戦いたいって思うようになってた。

 「……ピカチュウ」

 『お願い、メガニウム』

 夢が叶った、って言ったら大袈裟かもしれないけど。それくらい、私にとってこのバトルは嬉しい出来事だった。

 ……はず、なのに。

 「……」

 どうしてかな。勝てる気がした。

 ……否、勝たなきゃいけない様な、気がした。

 目の前にいるレッドさんの目が、何もうつしていなかったから。何だか、苦しそうだったから……



 レッドさんは強くて。私のポケモンは何体もやられちゃって。

 それでも、諦めずに戦った。勝ちたいって思いが、私やポケモンたちに力をくれた。……そして。

 「……!」

 『勝っ……た?』

 最後にたっていたのは、私のポケモンだった。

 『勝った……!勝ったよ、ありがとう!みんな!』

 レッドさんをよそに喜ぶ私。手持ちの皆も、すごく喜んでいる。

 暫く感動に浸っていると、突然レッドさんが私の横を素通りして行った。思わず、声をかける。

 『あっ、あの……!』

 振り向いたレッドさんの赤い瞳は、ちゃんと私を映して。輝いてる様な気さえ、した。

 『ありがとう、ございました……っ!』

 「……名前、」

 『え?』

 「お前……名前は何て言うんだ?」

 いきなりのレッドさんの問いに戸惑いながら、私は自分の名を告げる。レッドさんは、私の名前を小さく呼んで。

 『はい?』

 「……ありがとう」





 満たされた笑みで




 (レッドさんは笑った)
 (私も笑った)

 (もう、あの眼は)
 (苦しいなんて、言ってなかった)




 第一期拍手でした。







 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ