笛!

□太陽2
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でんでらりゅうば
でてくるばってん

でんでられんけん
でてこんけん

こんこられんけん
こられられんけん

こんこん





夕陽が沈もうと空を、雲をオレンジ色に染め上げる。私は買い物を済ませていつもの言葉遊びを口ずさみながら家から来た道を帰っていた。


その途中、少し長い綺麗な黒髪の男の子が大きな荷物を抱えているのを見つけ、気になってしまい声をかける。


『ねぇ、君。』


すると彼はキョトンとした表情を浮かべてこちらを振り返った。


「なんや、姉ちゃん?」


変わったイントネーションに、一瞬戸惑うが関西弁か、と脳は処理してどうしたの大きな荷物もって。て次の言葉をつむぎだす。


「いや、ちょっと野暮用でな。」

『まさか、家出?』


ふと浮かんだ一つの可能性。彼は歳に似合わない不敵な笑みを浮かべる。


「まさか、」


だよね、うん。
まさかその歳で家出は流石に。


「ちゃんと行くとこも決まっとるさかい、心配せんでええよ。」


『そう、それならいいの。』


「おおきに。」


ん?と礼の元を促せば、私が心配したことに対してだという彼に、しっかりしてるなぁと感心さえした。バイバイ、とお互い手を振れば、空にはうっすら月が浮かんでいるのに気がつく。


まずい。
非常にまずい。


私は手にぶら下げた買物袋が与える指に食い込む痛みも気にせずに家へ走った。







上がる息を無理矢理落ち着ける。はぁ、と深く息を吐くもまだ心臓は忙しく脈打つ。


私は家のドアノブを掴んだ。靴を見ると、あってほしくない革靴が揃っている。ドクリ、と変に鼓動が自分の中に響くのがわかった。


手に汗をかく。喉が渇く。瞬きがへって目も乾く。それらをごまかすように手に提げた袋を握り締めて唾を飲み込み、瞬きをする。


玄関を進み、リビングに入った。



入った先には、私の父方の祖父である彼が一人掛けのソファーに腰掛けている。


『ただいま・・・。』


ギロリと音が出そうなほど私を睨みつけるその視線に思わず身が竦んだ。


「相変わらずというか、ますますというか。お前の顔には虫酸が走るわ!!」


ギャンッと怒鳴り付けられ、思わず俯く。それでも彼の罵声は止むことはなかった。


「その顔があの阿婆擦れの血を引いてる事を証明しとる!何度その顔を見せるなと言ったら分かるんだ、さっさとここからでていけ!」


大丈夫、大丈夫だから。
慣れた。ずっと言われてきたじゃないか。大丈夫。私は耐えられる。


そう自分に言い聞かせて、私は口を開いた。


『お願いが、あるんです────。』


声が、震える。






















──────‥‥







「‥‥‥‥いいだろう。」



許可の声が、私にとって闇に射した光かのようにも感じられた。






中学二年。
二学期も残り一ヶ月たらず。


冬がきて、春がくる。


その春が、私にとって人生の起点になるとは、想像もしてなかった。















第01話 END

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120327  真宮 瑠榎


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